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第71話 **

××× 唯一の希望が、断たれてしまった。 実家に戻る選択肢を、希望と呼ぶのは可笑しいけれど。 このまま……ハルオのアパートに居候し続けるしかない。 ──でも。 この三カ月間、何とかやり過ごせたとして。もし、僕が他の男性と一緒に生活していたとハイジが知ったら。 合鍵を持ち、お揃いのルームウェアを着て、同じ柄の茶碗で僕の手料理を毎日食べていたと知ったら…… 考えただけで、ゾッとする。 嫉妬に狂ったハイジが、ハルオに襲い掛かって殴り殺し、裏切り者の僕の首を絞め殺すかもしれない。 そうされても仕方がないのは、解ってる。 けど、ハルオと僕を殺した後、冷静になったハイジはどうなってしまうんだろう。 今だって、僕のせいで辛い思いをしているのに。 また僕のせいで、……ハイジの精神(こころ)まで壊れてしまったら── * 南瓜のシチューを作ろうとして、牛乳が足りない事に気付く。 慌ててルゥを探すけど、この前の買い物で思っていたより高く、買い渋ったのを思い出す。 小麦粉とバターを確認してから、食費の入った財布を手にしてアパートを出た。 「……」 ……何だろう。 ただそれだけなのに、心が軽くなって開放的な気持ちになる。 大きく深呼吸をした後、足先を駅前のスーパーへと向けて歩き出す。 ハロウィンモード一色の街並み。 小さな洋菓子店前に、ハロウィンカラーの立て看板にポップなデザインのイラストが描かれている。 入り口のガラス壁には、〈仮装したお子さんには、お菓子をプレゼント〉の文字があり、その下に仮装した子供の写真が幾つも貼り出されていた。 近くのクリーニング店では、店員が魔女の帽子を被って接客。 向かいのファミレスや、その先のコンビニでは、ハロウィンを意識した新メニューの(のぼり)が目立つ。 ただ、牛乳を買って帰るだけなのに。心なしか真面(まとも)に息ができる。足取りも何だか軽い。ハルオの拘束から逃れ、束の間の休息を得たからだろうか。 ……そう、思っていた時だった。 「よぉ、姫」 ──ドク、ンッ 聞き覚えのある声に、心臓を打ち抜かれたような衝撃が走る。 「……」 でも、足を止める訳にはいかない…… ドクン、ドクン、ドクン、ドクン…… 声の主なら、振り返らなくても解る。 ──太一だ。

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