79 / 80
第79話 夜の蝶
×××
うら寂しい路地裏。
まるでゴミでも放り捨てるかのように、バイクから降ろされる。
上手く身体を起こせず。地面に転がったままの僕を、太一が暫く無言で見下げる。
その眼は冷たく、何処か恨めしそうにも物惜しそうにも見えた。
「……」
『チーム全員の公衆便所 』──そう言っていたのに。どうして突然、僕を手放したんだろう。
僕が意識を失っている間に、一体何があったの……?
バイクが走り去った後、地を這うようにして道の端まで移動し、道路標識の支柱に掴まりながら何とか立ち上がる。
身体中が痛くて、痛くて。情けない程、膝が笑って思うように歩けない。
それでも何とか、よろよろしながら表通りへと向かう。
ざわざわ、ざわざわ……
小悪魔、ナース、ゾンビ等……
歩行者天国と化したそこは、ハロウィンの仮装をした人達で賑わい、活気に溢れていた。
「……」
その光景に、一瞬目が眩む。
ハロウィンカラーのイルミネーション。騒がしい音楽。燥ぐ人々……
全てがキラキラと輝き、汚れた僕とは住む世界が違う事をまざまざと見せつけられる。
「……!」
かくんと膝が曲がり、その場に崩れる。
両手両膝を地面に付いたまま動けない僕を、冷ややかな目で通り過ぎる人々。
首筋に散る無数の赤い花弁すらも、仮装の一部だと思っているのだろうか。
「キャ──ッ!!」
突然。近くにいた女性が、悲鳴のような声を上げる。
「アゲハ王子がいるぅ、!!」
……え……
その声を皮切りに、周囲の女性達がざわざわと騒ぎ出す。
「あ、ほんとだぁ。アゲハぁ~!」
「アゲハくーん!!」
途端にできる人集り。軋む体を起こして地べたに座り、その人垣の向こうをぼんやりと見つめていれば──
「……」
黒スーツをビシッと着熟し、髪の色を染め派手な装飾をした男達が、大名行列の如く夜の街を練り歩いている。
「王子ィ~!」
「キャー!」
その列の先頭にいるのは──アゲハ……
爽やかな笑顔を振り撒き、人を魅きつけて止まないオーラを放つ。
「……!!」
此方に顔を向けたアゲハと、視線がぶつかる。
その刹那──爽やかな笑顔が消え、僕を嘲う様な眼に変わる。
アゲハのベッドで竜一との行為を見せつけた、あの時の復讐を遂げたかのように。
ともだちにシェアしよう!