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第79話 夜の蝶

××× うら寂しい路地裏。 まるでゴミでも放り捨てるかのように、バイクから降ろされる。 上手く身体を起こせず。地面に転がったままの僕を、太一が暫く無言で見下げる。 その眼は冷たく、何処か恨めしそうにも物惜しそうにも見えた。 「……」 『チーム全員の公衆便所(オンナ)』──そう言っていたのに。どうして突然、僕を手放したんだろう。 僕が意識を失っている間に、一体何があったの……? バイクが走り去った後、地を這うようにして道の端まで移動し、道路標識の支柱に掴まりながら何とか立ち上がる。 身体中が痛くて、痛くて。情けない程、膝が笑って思うように歩けない。 それでも何とか、よろよろしながら表通りへと向かう。 ざわざわ、ざわざわ…… 小悪魔、ナース、ゾンビ等…… 歩行者天国と化したそこは、ハロウィンの仮装をした人達で賑わい、活気に溢れていた。 「……」 その光景に、一瞬目が眩む。 ハロウィンカラーのイルミネーション。騒がしい音楽。燥ぐ人々…… 全てがキラキラと輝き、汚れた僕とは住む世界が違う事をまざまざと見せつけられる。 「……!」 かくんと膝が曲がり、その場に崩れる。 両手両膝を地面に付いたまま動けない僕を、冷ややかな目で通り過ぎる人々。 首筋に散る無数の赤い花弁すらも、仮装の一部だと思っているのだろうか。 「キャ──ッ!!」 突然。近くにいた女性が、悲鳴のような声を上げる。 「アゲハ王子がいるぅ、!!」 ……え…… その声を皮切りに、周囲の女性達がざわざわと騒ぎ出す。 「あ、ほんとだぁ。アゲハぁ~!」 「アゲハくーん!!」 途端にできる人集り。軋む体を起こして地べたに座り、その人垣の向こうをぼんやりと見つめていれば── 「……」 黒スーツをビシッと着熟し、髪の色を染め派手な装飾をした男達が、大名行列の如く夜の街を練り歩いている。 「王子ィ~!」 「キャー!」 その列の先頭にいるのは──アゲハ…… 爽やかな笑顔を振り撒き、人を魅きつけて止まないオーラを放つ。 「……!!」 此方に顔を向けたアゲハと、視線がぶつかる。 その刹那──爽やかな笑顔が消え、僕を嘲う様な眼に変わる。 アゲハのベッドで竜一との行為を見せつけた、あの時の復讐を遂げたかのように。

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