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第29話 side.風見

『いや、普通に寝てる。そういや最初になかった鉢、何育ててるんだ?』 半ば話を逸らすような短い文章を添えた紙をテーブルに置いてカウチソファへ寝転ぶ。ガラス越しの光に目を細めて時計で時間を確認する。 あと30分もしないうちに来るか。 穏やかにゆっくり過ぎる時間、仰向けで空を流れる雲をぼんやりと見つめる。不意に響く扉の開閉音とレンガを打つ靴の音に目を瞑る。次第に近づく足音に軽く握った拳の手の平が汗をかくのが分かる。狸寝入りを決め込んだ俺に気付くと極力音を立てないように少し離れた所に行って戻ってくるのが気配で分かった。 腹あたりにかけられた柔らかい重みと感触に無意識のうちに入ってた身体の力が抜けた。バレないように伏せた目が震えないように気を付けながら離れるのを待っていると前髪を横に流され数度頭を撫でられる。労わるような優しい手つきに身動ぎそうになるのを抑え込む。紙をとり離れる気配に誘われるようにうっすらと開けた目で後を追った。 そこに居たのは本当に普通のやつだった。背は平均より小さめで染めたことをなさそうな短い黒髪。身に付けた制服は気崩されることもなくしっかりしている。手にしたものを見て微笑んだ、照れたような表情が印象的だった。 あー、くそ……っ。 視線を逸らしてきつく閉じ、声には出さずに呟いた。

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