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第31話
「だ、誰の……?」
呆けながら小さく呟く。首を回して周りを見ても誰も居ない。2回りほど大きい黒のロングカーディガンが落ちないように肩にかけなおす。開きっぱなしのノートの横に置いてあったスマホをとろうと視線を向けると自分の書く字とは違うものが綴られていた。もはや見慣れてきているそれは、確かに彼の字だ。
『ノートとペン借りた。いつもと逆だな?疲れてるならカウチで寝りゃ良いのに。服はカウチのとこ置いとけ。嫌なら持ってろ。寝てるとき返してくれればいい。風邪引くなよ。』
「……ということは、このカーディガン彼の私服……?」
自分の中で昇華するように口にする。じわじわと事実を認識して火照る顔を俯けた。心配されて嬉しいのと寝ている間に彼が居たことが気恥しいのが混ざり落ち着かない。
思いっきり寝顔見られた……?寝言とか言ってないとは、思うけど、恥ずかしい。彼も思ってたら……うん。これからは寝顔まじまじと見ないようにしないと。
そう心の中で決める。服をそのまま置いておくのはしのびなかった僕は、見透かしたような言葉に甘えて洗ってから返そうと思った。
「向こうは顔知らないはずなのに、僕がいつもブランケットかけてるってよく分かったなあ……ノートの字かな」
字を覚えてもらえるくらいには仲良くなれたのかな、と口元が緩んだ。
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