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第32話 side.赤穂
5月になるのもあと数日というある日。同室者は傍から見ても分かるくらいに思い悩んでいた。この1ヶ月の一喜一憂は大抵、旧温室での出来事だ。それに放課後になるまではいつも通りだった記憶があるから帰寮するまでの間に何かあったとしか思えない。考え事をしながら作ったであろういつもより塩気の強い肉じゃがを箸でつつきながら直球で聞いた。
「真咲ちゃんまた旧温室でなんかあったん?」
「深く知りもしないのに、多分、僕、彼のこと好きになってる」
「……」
真咲ちゃんの口から思わずポロッと零れた言葉にしばし固まる。俺が詰まった言葉を探しているうちに自分の発言に気付いたのか顔を青くさせたり赤くさせたりと忙しない。結論をそこまではっきり言うつもりはなかったのだろう。燕ちゃん相手なら無防備な発言もあるけど俺相手だと珍しい。
戸惑っててよっぽど余裕なかったんやろなあ。てか、ようやくその答えに行き着いたんか……。
好きと言われたところでそこに関しては分かりきっていた事だし今更驚きもないが、ここまで無警戒に事実を本人の口から聞くのは少し驚いた。
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