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第38話
5月初日の放課後、旧温室へ向かう途中でボサボサした黒髪の私服姿の背中を見た。背丈は僕と同じくらいだろう人は淀みなく動かしていた足を止めて考え込んでいる。放課後になったばかりのこの時間帯に制服姿ではなく私服なのが不思議で首を傾げる。しかも向かっている方向には旧温室の近道か校門しかない。
もしかして、転入生……?
そう思ったときには何かを思いついたように叫んで林の中を突き進もうとしていた。
「にしても寮どこだよ!?あっ!森つっきりゃ近道になるか?」
独り言にしては大きい声量と向かう方向にぎょっとした僕は慌ててその背中に声をかけた。
「ま、待って、そっちは温室しかないよ!」
急に後ろから声をかけたのに驚くこともなくゆっくりと振り返ったのは、目が隠れるほどの前髪にどこで買ったのか問いたくなるような分厚い眼鏡をかけた人だった。容姿と言動のミスマッチさに混乱する。
「まじで!?ありがとなっ!」
「あ、うん。えっと……?」
毎回叫ぶように応える声に自然と眉が下がる。表情が見えないのは蘇芳くんで慣れたが、前髪からかろうじて見える口元が笑っているように見えてそうじゃない違和感があった。なんとなく、雰囲気が怖い。
苦手なタイプだ……。
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