43 / 66

第43話

嬉しいんだけど、こうして起きてるときに顔を合わせる初めてがまさか名前も知る前って気まずい。しかも向こうは僕の名前知ってるから余計に。手紙の相手の僕がこんな感じで残念に思われたりしてないだろうか……。あの時は寝てたけど顔は見られてただろうし。五十嵐くんそっちのけで彼の方をちらちら盗み見ていると彼がなにか喋ろうと小さく口を開いた。同時に大きい声でそれを遮った五十嵐くんの方をむくと指をさされる。 「こいつがさっき言った一緒に飯食うやつな!名前はー……」 「……藤代真咲、です」 「そうそう藤代。で!こっちが俺の同室者!」 名字が出てこなくて言い淀む五十嵐くんに苦笑を返して自ら名乗る。続いて彼を指さしてさらっとした説明に付け加えるようにぼそりと呟かれた。落ち着いた耳触りのいい低い声。 「風見賢二」 短く名前だけ言ったきり口を閉ざされる。 風見賢二くん。 心の中で名前を覚えるように反芻した。簡単な自己紹介のあと間を空けずに五十嵐くんが喋る。 「じゃあ食堂行こうぜ!」 お腹を擦りながらジェスチャーで空腹を訴える五十嵐くんを連れて1階にある食堂へ向かったのだった。

ともだちにシェアしよう!