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第47話

走りはしないものの明らかに歩く速度がはやくなる。副会長さんが五十嵐くんに甘く微笑むと周りからの悲鳴があがる。僕は全く状況についていけずに呆然と目の前で繰り広げられる光景を眺めていた。 副会長さんの後ろにいた生徒会の面々は次々に五十嵐くんへ話しかけている。双子の会計の山瀬くんがくるくると回ってどちらがどちらかを当てるゲームを2連続で正解し、山瀬くんが両頬にそれぞれキスをおとしてにこにこと去っていく。続いて書記の風間くんの沈黙を察して懐かれ、最後に愉快そうに口端をつりあげ笑った会長の雲出さんに唇を奪われてその頬を思い切り殴りつけた。 水を打ったようにしんとしていた食堂のあちこちで悲鳴があがるのと二風谷副会長が雲出会長へ詰め寄ったのはほぼ同時だったように思える。 「真咲!賢二!もう帰るぞ!!」 「えっ、…あ…っ」 苛立ちと怒りを隠しもしない声音で名前を呼ばれ我に返る。半分以上残してしまっている器に視線を向け切る前に、五十嵐くんに左腕を掴まれて無理矢理席を立たせられた。彼は反応しきれずもたつく僕の手首を掴み直すと力任せに半ば引きずるようにして入口へと向かった。 加減のされない力に顰めた顔を見られないよう俯かせ、緩まない歩みに合わせるのに必死で黙って後ろに着いてきた風見くんがどんな顔をしていたのか僕は知らない。

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