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第57話

じっと顔を見られて数秒、少しだけ目を細めた風見くんの方から外された視線に無意識に入れていた肩の力が抜けたのが分かる。食堂を出てからずっと、五十嵐くんと僕の間に風見くんが居るおかげで本当にただの付き添いのようになっていた。 また腕掴まれることもなかったし、助けてくれたのかな。風見くん何も言ってこないから分からないけど。 言い争いと遠巻きに眺める生徒の声を聞くともなしに聞きながら、都合のいいように考えていると職員室の扉を開けて出てきた人に名前を呼ばれた。声を張っている訳でもないのによく通るそれに水を打ったように静まり返るそちらを向く。 「真咲」 「……あ、燕くん」 ゆったりとした足取りで僕の方へ向かってくる従兄弟に、この押し問答の終わりが見えてほっと息を吐いた。燕くんの登場で眉間に深い皺が刻まれかけていた迹吏くんの雰囲気が緩んでいるのが分かる。 ……怒り始めなくて良かった。 「こんな所で騒いでどうしたんですか?……SHRまであと12分強ですかね、皆さん遅刻しますよ」 燕くんは左手首にしている腕時計を確認して遠巻きに見ている生徒達にも言うように周りを見渡す。僕はその場で我に返ったようにあたふたと去っていく生徒を見送った。

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