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第59話

お互い動かないまま見つめ合って数秒。体感時間としては長く感じたそれを終わらせたのは僕の方だった。なんと声をかければいいか迷いながら緊張で張り付く喉を動かす。やっと出たのは、彼の名を呼ぶ小さい声だった。 「っ……風見くん?」 「……なんだ?」 「えっ、と、五十嵐くんはいいの……?」 彼の更に後ろで未だに騒いでいるのをちらりと見ながら言うと風見くんは片眉をあげて溜め息を吐いた。なんとも言えない微妙な表情で目を逸らした彼の返答を待つ。 「歩とはクラスちげーし待ってても意味ねえだろ」 「そっか……、風見くんもこのまま教室行く?」 「…………今日はな」 たっぷりの間を置いてバツが悪そうに肩を竦めた風見くんが歩き出す。そのまま置いていかれるかと思ったら数メートル先で止まって僕の方を向くと顎で先をさされた。 「さっきの奴も言ってたが、ぼーっとしてると遅刻すんぞ」 「えっ、うん」 これは……途中まで一緒に行っても良いって、ことかな。嬉しいけど、よくよく考えたら起きてる風見くんと二人きりの状況って今が初めてなんじゃ……? 考え至って自分のおかれた状況を再認識すると慣れない距離感に自然と冷や汗が出た。

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