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第16話
……そんな訳、ないよね。
だってハルオは、ゲイで。女性をレイプして楽しむような人なんかじゃない。
そう、心の中で自己解決させようとするけど……そこまでハルオを知っている訳じゃない事に気付かされる。
「……」
もし、このビデオの撮影者がハルオだったら……どうしよう。
ハルオが、卑劣な事をする人だったら──
胸が苦しくなり、浅くなる呼吸。
背筋に悪寒が走り、全身が小さく戦慄く。
「……」
……カチッ
流れる映像をそっと閉じ、全てを元通りにする。
だけど。一度知ってしまった事実まで、無かった事にはできそうになかった。
*
「……ただいま」
ハルオの声が聞こえて、ハッと我に返る。
何時から動けずにいたんだろう。気付けば僕は、真っ暗な寝室の床に尻餅を付いていた。
「さくら?」
遠くから聞こえる、不穏な声。
顔を上げてノートパソコンを見れば、充電が切れたのか、それともオートオフでも設定していたのか。画面は真っ暗になっていた。
「──さくらっ!」
リビングの電気が点き、バタバタと慌てた足音が近付く。
半分程開いたドアへと顔を向ければ、その隙間から人影が差す。
「……良かった」
安堵の溜め息。
ドアの入口に立つハルオが、床に座っている僕を見下ろしていた。逆光のせいで、その表情はよく見えない。
「部屋が暗いから、心配したよ……」
ビクッ……
本能的に震えてしまう身体。
一歩。薄闇に踏み込み僕との距離を詰めるハルオの姿が、映像の中の男性と重なる。
「……どうしたの? 学校で、何かあった?」
心配そうに見つめながら、一歩また一歩とハルオが距離を詰める。
「……何でも、ない」
やっと出せた声は、随分と小さくて、酷く掠れてしまった。
それでも。警戒しながら、近付くハルオをじっと見つめる。
「何でもなくは、ないよね」
寂しそうにそう呟きながら、見下ろすハルオ。顔に陰が掛かっているのに、眼だけがギラギラと光って見える。
スッ──
僕の前に膝を付き、目線の高さを合わせる。
「ほら、ちゃんと言ってごらん」
「……」
動けず、脅え震える僕に、両手を伸ばして抱き締める。
その瞬間──女性の口に布を詰め込み、カメラを構える男性の映像が頭の中のスクリーンに映し出される。
「……やめて……」
ぎゅっと目を瞑り、ハルオの手が、僕の後頭部に触れようとするのを全身で拒む。
「……」
ずっと一緒に暮らしてきて、こんなにハルオを怖いと思った事なんて……無い。
全身が、ぶるぶると戦慄く。
喉が締まって、上手く呼吸ができない……
「怖がらないで。……さくらには、俺がついてるから」
くしゃ……
後ろ髪に差し入れられる、ハルオの指。後頭部を包み込まれ、ハルオの肩口へと誘導される。
「俺がずっと、守ってあげるよ」
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