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第17話

隣の部屋から聞こえる、テレビの雑音。 ソファに座るハルオが、寛いでる姿が容易に想像できる。 「……」 母の時も、そうだった。 理不尽な理由で散々怒鳴り散らした後、当時折檻部屋だった狭い押し入れに僕を押し込め、悠々とテレビを観ていた。 曲げた両膝を抱え、脅え震えながら夜を過ごしたあの頃に比べたら、こうして足を伸ばして眠れる分……マシなのかもしれない。 それに──食事の用意ができていない事を咎めず、僕を気遣ってわざわざデリバリーピザまで頼んでくれた事にも。 『俺がずっと、守ってあげるよ』──その台詞にゾクッとはしたけど……きっと、僕が気付かないふりをしていれば、何も起こらないのかもしれない。 あの忌まわしい実家に帰って、辛い思いをする位なら……尚更。 「……」 都合の良い方へと逃げているのは、解ってる。 目まぐるしく頭の中がぐるぐると渦を巻き、じわじわと闇が迫る。 細く息を吸い、ゆっくりと吐きながら瞼を閉じる。 何処にも逃げ場のない僕は、ただ耐えてやり過ごすしかない。……でも、何処まで耐えられるか分からない。 身体の深部の方に、まだ不気味な恐怖が残っている。 * ……ゃ、…… 闇から伸びた手が、僕の両手首を掴んでベッドに縫い付ける。 振り払おうとしても、びくとも動かない。 ……やめてっ、離して…… そう言おうとした口が塞がれ──歯列をこじ開け、滑滑(ヌメヌメ)とした生温かいものが侵入してくる。 くちゅ…… 僕の咥内を弄る、濡れそぼつ粘膜。 その息苦しさとリアルな感触に、重い瞼を少しだけ持ち上げれば── 「──!」 視界いっぱいに映る、ハルオの顔。 つぅ…… 混ざり合った唾液が、口の端から零れ落ち、頬に伝う。 慎重に瞼を閉じれば、唇を離したハルオがその唾液を指先でそっと拭う。 「……おやすみ。俺のさくら」 そう小さく呟くと、僕の前髪をそっと掬って跳ね上げ、剥き出された額にキスを落とす。 ──トン。 人影が離れていった後、静かに閉められる引き戸。 その瞬間、現実が一気に襲い掛かる。早鐘を打つ心臓。嫌悪から熱くなる身体。ゾクッと背筋が冷えたかと思うと、喉が詰まったように息が苦しい。 「……」 これは、今日だけの事……? それとも……今までにもあった──? ざらりとした、胸を巣くう嫌な感覚。 咥内を弄られた感触がずっと残っていて……気持ち悪い。

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