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第19話

「………ごめんなさい。 今日は、……学校の友達と、約束してて……」 ナイフとフォークの先を皿の縁に掛けて置き、咄嗟に嘘をつく。 こういう事には慣れていないのに。驚く程に、滑らかに言葉が零れ落ちていく。まるで口だけが、別人格になってしまったかのように。 ──ガチャンッ、 「……約束……?」 瞬間。それまでの穏やかだった雰囲気が消え、ハルオの表情が強ばる。 「相手はっ、どんな奴だ──!」 眼を大きく見開き、眉間に皺を寄せ、切羽詰まった表情で斜向かいに座る僕に顔を寄せる。 「まさか、さくらを苦しめてる奴か……?!」 「……っ、」 その気迫に圧され……ハルオを見つめながら、ただ小さく頭を横に振る事しかできなくて。先程とは違って上手く言葉を返せない。 「……ダメだ」 憂苦の色が混ざった、追い詰めるような眼。その視線が、一瞬だけ僕の首筋を掠め見る。 「……」 もう、薄くなって殆ど痕の無いそこを、思わず片手で覆い隠す。 「さくらは今日、俺と一緒に過ごすんだよ」 「……」 有無を言わせない真っ直ぐな双眸。眼が細められ、柔らかな雰囲気が混じる。 「……、でも」 震えてしまう声。 意を決して出したのに、脅えているのが伝わってしまう。 でも、……ここで抗わないと、きっと次のチャンスはない。 「さくらが、心配なんだよ」 ハルオの手が伸び、首筋を隠す僕の手をそっと取って握る。   「さくらは可愛いくて、色気もあって……でも、ほら。こうして簡単に手が握れてしまうほど、無防備で……」 「……」 「心配なんだよ。もし騙されて、襲われでもしたら──」 「………そんな事っ、!」 耐えかねて、手を引っ込める。 「そんな事、ある訳ない……」 ……僕が、可愛い? 色気がある? そんな訳ない。もしハルオがそう思っていたとしても、皆がみんなそうじゃない…… 「どうしてそう言い切れるんだ? ……その友達は、さくらを(よこしま)な目で見ていないと言い切れるのかい?」 「……」 思い詰めた様に眉間に皺を寄せたハルオが、顔に陰を落とす。 「もし、それでも会うというなら……ソイツをここに連れてきてくれないか」 「……ぇ……」 「直接会って、信用できる相手かどうか、俺が見極めるから」 「……」 何で…… どうしてそこまで…… 物哀しげに微笑むハルオが、僕に迫る。 再び僕の手を掴み、指を絡めた恋人繋ぎにして。 「……わかった」 ハルオの視線から逃れるように、俯く。 「何処にも、出掛けない……」 僕はもう……ハルオという牢獄から抜けられない。 僕に与えられる自由なんて、……もう、ないんだ……

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