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第24話

××× 朝靄が立ち込める中、ハルオと並んで歩く。 フード付きのパーカーにマフラーをふわりと巻くものの、やはり早朝は寒くて。悴む手を擦り開いた手のひらに吐息を掛けていると、その片手をハルオが攫う。 「……」 「やっぱり、寒いでしょ」 出掛けに、使っていないコートを貸すよと言われたけど。ハルオの匂いのついた物を纏いたくなくて……断っていた。 「……大丈夫」 ちょっとだけ、意地を張って返す。 手を引っ込めようとすれば、察知したその指に強く握り締められ、ハルオのジャケットコートのポケットに誘導される。 「……」 ……嫌だ…… 小さく狭いその空間に、濃密に重ねられたハルオと僕の手が仕舞われる。 まるで、今の僕のよう。……逃れたいのに、逃れられない。 ふと、発狂する母の顔がチラつく。 もし拒否をしたら、次はどんな仕打ちを受けるか解らない。……考えただけで、呼吸が震える。 このまま大人しくしていた方がいい。……解ってる。もっと、酷い事になってしまいそうだから。 「……」 チラッとハルオの顔色を盗み見れば、目が合ったハルオが穏やかな表情を浮かべて見せた。 学校へと続く、駅前から伸びた大通り。そこに差しかかる頃には、元気に燥ぎながら登校する学生達が目立つ。柔らかな朝陽を浴び、より一層明るく輝かしい姿が、僕の眼に映る。 ……きっと、大きな悩みなんて無いんだろう。 絵に描いたような幸せな家庭で温々と育ち、友情だ恋だと他愛のない話や悩みを溢しながら、仲の良い友達と楽しい毎日を過ごしているんだろうから。 だから、想像もしないよね。 僕が、隣にいる人のアパートで暮らしている事も。この人に束縛されてる事も。 「夕方、迎えに来るから」 校門前で、ハルオに強く抱き締められる。その横をぞろぞろと通り過ぎる学生達。 「……」 ……助けて。 心の中で叫ぶ。 誰か、助けて…… だけど。視界に映る人達から向けられるその視線は、冷ややかで。 ──こんな所で何やってんだよ。 ──通行の邪魔。 ──あれが、キスマーク付けた相手? ──へぇ。やっぱ男じゃん…… 「……」 やめて…… そんな眼で、見ないで…… この光景は、まるでギロチンに掛けられた──死刑囚。 学生達と視線がぶつかる度、奇異の眼に晒されているような気がした。

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