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第25話
ショルダーバッグを抱えたまま、教室へは向かわず一直線に保健室へと急ぐ。
「……」
まだ、身体の震えが止まらない。
ハルオの温もりが、匂いが、身体に纏わり付いて……気持ち悪い。
最初は……こんな人だったなんて、思わなかった。
『もしかして、だけどさ。……君、男性が好きな人だったりする?』──そう、レンタルショップ店で話し掛けられた時から、少しは警戒心を持ち合わせていたつもりだったけど。
一時的にハイジと離れる事になって。住む場所が無くなり、困り果てていた僕を快く泊めてくれた時は……いい人だなって、思い直していたのに。
違和感を感じるようになってから、その思いが少しずつ強くなっていって……今ではもう、見えない首輪を括られ、リードを繋がれ、ハルオの思い通りに生かされているよう──
「……」
逃げたい。
……でも、逃げられない。
もし次の居候先を見つけられたとして、上手く逃げられたとしても……地の果てまで僕を探して、連れ戻されてしまうかもしれない。
今のハルオは、異常だ。
きっと、僕しか見えていない。
僕さえいれば、他には何も要らない──そんな気さえしてくる。
バイトを突然休むし。行ったとしても、寄り道しないで真っ直ぐ帰ってくる。
休みの日は、決まって僕と一緒。他の誰かと交流している気配すらない。
……ああ、そうか。
だからあの時、心配して凌さんが……
「──!!」
凌……
その名前が浮かんだ瞬間、鈍器で後頭部を殴られたような衝撃を受けた。ずっと頭の中に掛かっていた靄 がスッと晴れ、眼前に一筋の光が差す。
「……」
初めて会った時──フラッシュバッグしてしまった僕の手をそっと握り、僕の頭を優しく撫でてくれたあの優しい手が、差し伸べられたような気がした。
トサッ……
人通りの少ない廊下。その端に立ち止まり、抱えていたショルダーバッグを足元に下ろす。
……どうして今まで、気が付かなかったんだろう……
制服の内ポケットから取り出した、生徒手帳。顔写真が貼り付けられている所を開けば……そこには以前、凌に貰った電話番号の書かれた紙が挟まっていた。
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