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第23話

……もし。 もしハルオに身体を許してしまったら……どうなるんだろう。 有耶無耶なまま、ハルオの恋人になってしまうんだろうか。それとも。直ぐに飽きて、あのセフレのようにアパートから追い出すのだろうか。 「……」 目の前で、美味しそうに生姜焼きを頰張るハルオ。パソコンの動画に映っていたハルオらしき人物と重ね合わせれば、今のハルオの優しさは仮面のようで、一過性のもののように感じる。何れ僕に、泣き叫ぶ女子高生に非道い事をしていたあの男のように、本性を剥き出してくるような気がしてならない。 「さくらはさ、お兄さんいる?」 味噌汁を啜った後、ハルオが唐突に質問をする。 「……、ぅん……」 「良かった」 咄嗟に答えれば、椀を置いたハルオの唇が、綺麗な弧を描く。 「明日、さくらの学校に行こうと思うんだ。親族関係者──さくらの『兄』として」 「……え……」 ……ハルオが、学校に……? 驚きすぎて、思わず声が漏れる。 「学校に、さくらを苦しめている奴がいるんだよね。その事を先生に伝えて、しっかりと対処して貰おうと思ってさ」 「……」 僕の首筋へと向けられる、ハルオの視線。 その瞬間──見えない真綿が、また少しだけ僕の首を絞める。 「……その事、だけど……」 そっと箸を手前に置き、目を伏せ、喉奥から声を絞り出す。 「僕を襲ったのは、……学校の人達じゃない……」 「……」 「ハイジと、同じチームにいた人達……だから……」 ……だから、お願い。 学校にまで乗り込んで来ないで。 これ以上、僕を……縛り付けないで…… 「……何だよ、それ……」 ──バンッ。 ハルオの箸が、ガラステーブルの上に叩きつけられる。 一瞬にして、ピンと張り詰める空気。 「それじゃあ、……余計に危ないじゃないか……!!」 地の底を這うような、怒号。 ハルオから漂う、負のオーラ。 母が豹変した時のように、ビクンと大きく肩が跳ね上がり身体が竦む。 「明日から毎日、俺と一緒に学校へ行こう。……帰りも、迎えに行くから」 「……」 「いいね?!」 有無を言わせぬ強い口調。 その圧に押され、ハルオを見ながらこくんと小さく頷く。 「……」 ……どうしよう。 またひとつ、見えない鎖が僕に掛けられてしまった……

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