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第22話
×××
黄金色に輝くカーテンが部屋全体を仄明るく染める頃、のそりと重い身体を起こす。
「……」
もう直ぐ、ハルオが帰ってくる時間だ。……そう思うのに、まだ頭が上手く働かない。
重い瞼を開け、この部屋が次第に黄昏れていくのを、ただぼんやりと眺めていた。
今のままでいい訳がない。バイトをして稼いだお金を入れれば、少しは負い目を感じなくなる筈──昨晩考えて出た結論に、少しだけ胸が透くような気持ちになった。
朝。バイトに出掛けるハルオを見送った後、急いで支度をする。不安と期待を胸に抱え、玄関のドアを開けると、繁華街へと足先を向けた。
……だけど。
店先に貼られたアルバイト募集の用紙を覗けば、応募条件の年齢は高校生以上。思い切って店員さんに尋ねてみるものの、15歳未満は法的に働けないと断られてしまった。
結局、どの店でも中学生の働き口は無く。その現実に、打ちのめされる結果に終わってしまった。
昨夜、よく眠れなかったせいか。歩き疲れたせいか。……それとも、現実を目の当たりにし、酷く落ち込んでしまったせいか。
帰宅後、仮眠のつもりでいたのに。いつの間にか、こんな時間まで眠ってしまっていた。
「……」
……早く、夕飯の支度をしなくちゃ……
ベッドから両足を下ろし、重い足取りでキッチンへと向かった。
*
「……ただいま」
じゅうじゅうと肉を炒める音の向こうから、玄関ドアの閉まる音と共にハルオの声が聞こえた。
「お帰りなさい」
顔を向けると、靴を脱ぐハルオが笑顔を返す。
フライパンの火を止め、千切りキャベツの乗った皿に先程の肉を盛り付けていると、直ぐ背後から気配を感じて手が止まる。
……ふわっ、
両脇から差し込まれ、お腹に当てられる両手。背後から迫る、ハルオの温もりと息遣い。
「……いい匂いだな」
肩口から顔を出し、僕の頬に触れるか触れないかの距離まで顔を寄せる。
「……」
止めて……
心の中で叫ぶ。
ゾクッと鳥肌が立ち、全身で拒絶するものの……振り払う事はできなくて。
「美味しそうで、堪らないよ」
「……」
「……我慢、できない」
「──!」
吐息と共に、耳元で囁かれる声。
キュッと強く抱き締められ、ハルオの下肢が更に密着し、腰の当たりに硬いモノが当たる。
「………早く、食べたい」
全身から、血の気が引いていく。
そこを埋め尽くすかのように、色んな負の感情が全身に押し流される。
「……」
……それは、どっちの事……?
足先が震え、感覚が麻痺する。
ハルオの抱き人形にでもなってしまったかのように、硬直して……動けない。
……息が、できない……
「着替えてくるよ」
耳元でそう呟いたハルオが、既に空となったフライパンを僕の手から奪ってコンロに戻す。そして、何事も無かったかのようにスッと離れていった。
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