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第21話
ずっと、心の中に溜め込んでいた感情が、堪えきれずに口から飛び出す。
いつ襲われるか解らないこの状況に、呼吸が上擦り、全身の感覚が無くなる程震えて止まらない。
「……」
キスをした事で、きっとハルオの中で、僕との境界線が曖昧になってしまったんだろう。
でも、だからといって、このままハルオの思い通りになんかなりたくない。
……これ以上、奪われる訳にはいかない。
「………違う」
ハルオの唇が、小さく動く。
拒絶の眼を向ける僕を見下ろすハルオの眼が、憂苦に染まっている。
「好きだから、触れたいんだ。
……好きだからこそ、それ以上を望んでしまうんだよ」
「……」
なに、言ってんの?
好きなら、何をしてもいいって言うの……?
……そんなの、間違ってる。
「だからって、……酷いよ……」
涙で滲む視界。
手の甲で、汚された唇を拭う。
「──っ、ごめん!」
弾かれたように、ハルオが僕から手を離す。その瞳は大きく見開かれ、動揺し、焦りの色を浮かべていた。
「ごめん……
俺に気持ちが向くまで、待つから。……ちゃんと、待つから。
だから、俺との未来を……考えて欲しい」
「……」
眉間に皺を寄せ、今にも泣き出しそうな表情。
僕から離れスッと立ち上がり、キッチンの方へと消えていった。
*
ハルオの好きは、きっと本当の好きじゃない。
灯りの消えた暗い部屋で一人、ベッドの中に踞りながらそんな事をぼんやりと考える。
「……」
そう思っているのに。傷付いたようなハルオの顔がチラついて、中々消えてくれない。
ハルオは、居候の身である僕の弱い立場を利用したけれど。……僕だってそうだ。
他に頼る所のない僕を受け入れてくれたハルオの優しさに、甘えきってる。
タダでここに泊めさせて貰ってる上に、生活費の全てをハルオに負担させてしまっている。その上、ベッドまで占領して──
でも、だからといって、妥協なんかしたくない。
身も心も、ハルオに捧げるつもりはない。
「……」
ギュッと目を瞑り、胸の内側から溢れる罪悪感に耐える。胸元の布地を掴み、浅くなる呼吸を何とか落ち着かせながら。
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