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第32話
繋がれたままの手枷──
裏通りに入り、迂回しながら繁華街へと向かう。
古い家屋や錆び付いたような個人店が建ち並ぶ、華やかさとは無縁の路地裏。ムンと空気が篭もり、独特な臭いが微かに漂っているような気がした。
「……」
点滅信号もない細い十字路。繁華街に近いんだろう。そこを越えた先には人の往来が見られ、活気もある。
チカチカと輝くネオン。三階建てのメタリックな厳つい建物を見上げれば、スモーク掛かったガラス壁の向こうから様々な色の光が当たり、滲んでは消える。
「……ゲーセンか……」
ぼそりと呟かれる声。チラリと隣を盗み見れば、立ち止まったハルオがその建物をじっと見ていた。その横を、会話を弾ませた女子高生達が追い越して、店内へと入っていく。
ドア向こうから溢れる光は、眩 くて。鳴り響く激しい音楽や突き抜けるような機械音が、一斉に迫る。
「少し、寄っていこうか」
「……」
口角を持ち上げたハルオが、僕を見下ろす。
……まさか、僕が見ていたから?
そんな有りもしない思考が、ふと過る。
「……うん」
俯きながらそう答えれば、手枷がギュッと締め付けられ、店の中へと引っ張られた。
綺麗に整列された、大小様々なクレーンゲーム。女性に見守られながら、大きなうさぎのぬいぐるみに挑む男性。人気キャラのグッズを狙う、学生集団。一人で黙々と金を注ぎ込む中年男性。
「何か、欲しいものでもある?」
「……え」
辺りの様子を見回していると、身を屈めたハルオに耳元で囁かれる。
「取れるかどうかは解らないけど……さくらの為に、挑戦してみようかな」
「……」
激しい音が響く中、独りごちるハルオ。僕の手をしっかりと握り締め、クレーンゲームの景品をひとつひとつ物色しながら歩き回る。
「これなんか、どう?」
アクリル板の向こうに見えたのは、ロック柄のリボンを背負う、可愛らしいフォルムをしたクマのキーチェーン。
ピンクと黒色の二体のぬいぐるみが、無造作に転がっている。
「……見てて」
肩に掛けていた僕のショルダーバックを床に置き、ジーンズの腰ポケットから長財布を取り出す。
「……」
ずっと繋がれていた手枷が、ようやく外された。
重ねられていた手のひらが熱くて。擦り合わせるようにそっと触れれば、じん…と指先が痺れる。
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