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第34話

ゲームセンターから程近い、ビルの一階にある小さなレストラン。人気店なのだろうか。比較的に早い時間にも関わらず、入口付近にある7人程度が座れる待合席は既に埋まり、あぶれた数人の客が立ち待ち状態であった。 「……お待たせ致しました」 暫くしてメニュー表を抱えた店員に案内される。 店の半分以上を占めるコの字型の幅広な木のカウンター。観葉植物やモダンなインテリア雑貨が飾られ、オープンキッチンらしく数人の店員がその中でテキパキと動いていた。 「ここ、凄く美味しいって評判の、オムライス専門店なんだよ」 横並びに座ったハルオが、メニュー表を開きながら僕に身を寄せる。 「色んな種類があって、迷うね」 「……」 「あ、これ美味しそう!」 肘を付き、その近すぎる距離でメニュー表を捲りながら、嬉しそうに話し掛けるハルオ。 「……」 その後、注文した料理をシェアする訳でもなく、手や背中を触れる訳でもなく。時折僕に他愛のない言葉を掛けながら、ハルオは始終和やかな雰囲気を醸し出していた。 そのせいか。食事を終え店を出る頃には、片隅に追いやっていた筈の罪悪感がその存在を主張し始め、執拗に僕を責め立てる。 「……」 きっと、これが本来のハルオなのかもしれない。 もしそうなら、家を出る事を……きちんと話しておかなくちゃ── 『……あかんよ』 鼓膜の奥で、昼間の凌の声が響く。 『話したら、絶対あかん』 スポーツカー特有の、大きなエンジン音。揺れる振動。 カーラジオを消し、前を見据えたままハンドルを握る凌が、ピシャリと言い放つ。 『ケジメつけたくなるんは解るけどな。 話したら最後、──襲われんで』 『……!』 その言葉が、柔らかな心臓を握り潰す程の衝撃を与える。 確かに。黙って突然消えるのは、恩を仇で返すようで心苦しい。 でも──本当は、それだけじゃない。 「……」 ……怖い…… もし黙って逃げたら、何処までも何処までも追い掛けられそうで。 僕に括りつけた見えない鎖を手繰り寄せ、捕まえた僕をあの部屋に押し込めて……もう二度と脱走できないよう、僕から自由を奪って── 『……心配せんで。 暫く学校には行かれへんけど。折を見て、俺がカタつけたるから』 チラと視線を向けた凌が、僕を安心させるかのように微笑む。

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