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第42話
ガチャ、ガチャガチャッ、
……開かない。
どうして、開かないんだろう……
もう一度鍵のつまみ部を確認するけど、ちゃんと『開』の方向になっている。
……まさか……外から鍵を……?!
ゾクッ、と背筋に寒気が走る。
まるで、折檻部屋に閉じ込められていた時のよう。
一瞬──過去 に心を捕らわれ、闇の底に引き摺り込まれそうになる。ひゅっ、と喉が鳴ってしまったものの……冷静さを取り戻そうと、大きく息を吸い、ゆっくりと細く長く吐き出す。
「……」
……大丈夫。ここが全てじゃない……
他に出られそうな所がないか、探してみよう。
ショルダーバッグをその場に置き、リビングへと戻ると、ベランダから身を乗り出して眺める。
「……」
ニ階とはいえ、充分高い。下はダークグレーの硬いアスファルト。落ちた時の衝撃を想像すると……足が竦む。
一度室内に戻り、キッチンの小窓を開ける。
「……!」
防犯防止の為か、しっかりとした面格子が施されている。
……これじゃ、出られない。
他に出口なんて……もう、ない……
震える呼吸。
絶望に打ちひしがれ、怯みそうになるのを必死に堪える。
……そうだ。
パソコンの前に立ち、画面を起動する。以前動画を見た時、確か左側に並んだアイコンの中に、通話アプリのようなものがあった筈。
制服の内ポケットから生徒手帳を取り出し、凌の電話番号が書かれた用紙を挟んだ場所を探す。
「……ぇ……」
ない……
パソコンの横にあるメモ帳に飛び付いて確認するものの……そこにはもう、真っ平らな白紙しかなかった。
「……」
牢獄だ。
……永遠の牢獄。
暗闇が襲い、アメーバの如く僕の心を飲み込んでいく。
脳幹が痺れ、頭の中が真っ白になり……もう、何も考えられない。
「……」
……思い、出さなくちゃ……
焦りと恐怖で震える中、昨日、事務室で電話を借りた時に掛けた電話番号の記憶を必死に辿る。
震える指。止まる呼吸。何の確証も無いまま、ひとつずつ数字を入力していく。
もし、間違っていたら──そんな最悪な未来 を想像してしまう。
……駄目だ。ここで弱気になってちゃ……
意を決し、通話ボタンを押す。
『……もしもし』
数コールの後、相手の声が響く。
『どちらさん?』
少しだけ警戒するような声。
でも。その独特のイントネーションや声色は、間違いない。
僕の求めていた──凌の声だ。
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