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第43話

「……あの、さくらです……」 声が、少しだけ震える。 それまで張り詰めていたものが一気に解放され、安堵と嬉しさから……涙が溢れる。 『……あぁ、さくらちゃんか。 今、向かってる所やけど……何かあったん?』 「その……アパートに閉じ込められてしまって、……出られなくて……」 『───はァ?!』 凌が奇妙な声を上げる。 確かに。冷静に考えてみれば、変な事を口走っているのは解ってる。 一体どうやって、玄関ドアの外側に鍵を取りつけたんだろう。 ……そもそも。そんな鍵なんて、本当にあるんだろうか。 『ハルオは……まだ、部屋におんのか?』 「……いえ。バイトに行きました」 『……』 しん、と静まり返る空間。 緊迫した空気が、画面越しから伝わってくる。 『……なら、今からそっち向かうわ』 返答も待たず、直ぐに切られる電話。 事務的で、冷めたような言い方に不安が募る。 ……信じて、いいのかな。 もしこのまま大人しく待っていても、凌が現れなかったら──? 「……」 ふと、部屋の小窓に目が止まる。 ベランダ側の窓ではなく、斜向かいにあるその小さな窓。 ……確か、こっち側は……駐輪場があった筈…… ガラッ、 引き付けられるように近付き、窓を開ける。面格子はなく、ホッと溜め息をつく。 サッシに手を掛け、下を覗き込んでみれば……細い側道の向こう側に駐輪場が見えた。 「……」 思ったより、遠い。 だけど。直ぐ下には植え込みがあ る。 ……怖い。 小枝が刺さる痛みや、手足の骨が折れるような衝撃を想像して、身体が竦む。 でも。現実的に考えて……出口は此処しかない。植え込みに落ちて助かったっていう話なら、何度か聞いた事がある。 ここに囚われ続けて、ハルオの性奴隷になる位なら……飛び降りるしかない。 玄関から、ショルダーバッグと靴を拾って再び寝室に戻る。と、パソコンの画面が立ち上がったままである事に気付く。 スタートボタンをクリックし、シャットダウンさせる。その数秒間。とても静かで、落ち着いた気持ちになる。 ……きっと、大丈夫。 今なら、上手く飛び降りられそうな気がする。

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