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第44話

「……」 窓辺に立ち、抱えたバックと靴を窓から落とす。 ザッッ、と植え込みの枝葉が揺れ、壁際の地面に転がって落ちたのが見えた。 サッシに手を掛け、身を乗り上げるようにして片足を掛ける。 ドクン、ドクン、ドクン…… ……高い。 転がっている小石が、米粒にも満たない大きさに見える。遠くの駐輪場も、ミニチュアの玩具みたいだ。 でも、大丈夫。バックも靴も、ゆっくりと落ちていったように感じたから。 両足を窓枠の外に投げ出し、ぶらんとさせて座る。冷たい風が吹き、僕の横髪を少しだけ乱す。 その髪を耳に掛け顔を上げると、遠くの空を眺めた。 「……」 雲の切れ間から射す、一筋の光。呼吸を整え、高鳴る心臓を抑える。 と…… 「──ええ度胸しとるやんっ、!」 ……え…… 突然の声に驚く。 下を見れば、モカブラウンの髪を後ろに束ね、黒のロングコートを羽織った凌が、此方に向かって歩きながら僕を見上げていた。 「俺が、受け止めたろか?」 その軽い口調に、それまであった緊張が解けていく。 ……来て、くれた…… 本当に……僕の為に…… 「……うん、」 ──トサ、 下で構えた凌の腕の中に、トスンと落ちる。 たった数秒。なのに、もっと長く空中にいたような気がする。 背中と腿裏に衝撃を受け、しっかりと受け止められた瞬間……甘く爽やかな匂いがふわっと立ち篭め、僕の鼻腔を擽った。 「さくらちゃんて、えろう軽いんやな。40キロも無いやろ」 「……」 僕をしっかりと抱きかかえ、覗き込んだその瞳は優しくて。明るく微笑むその表情は、陽だまりのように温かくて。 ただ、それだけで……大きなものに包み込まれたように、酷く安心する。 「よく気張って飛んだな。……偉い偉い!」 両足を下ろして立たせると、僕の髪をくしゃくしゃと掻き回す。 柔らかくて、大きな手。 恥ずかしくて俯けば、突然、その手が止まる。 「それ、どないしたんや」 緊迫する声。 何かを察したようなその響きに、思わず片手で首筋を隠す。 「ハルオに……乱暴されたんやな」 その腕に触れた凌の手が、誘導するようにそっと剥がす。 首筋だけじゃない。その手首にも……強く握られた痕がうっすらと残っていた。 「……怖かったやろ」 憂いを帯びた声。 ゆっくりと、小さく頭を縦に振れば、凌がそっと抱き締める。 「……」 その腕の中は、温かくて。 怖ず怖ずと凌の背中に腕を回し、頭を胸に預けた。

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