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第15話
×××
時刻は22時──人々の欲や本能が剥き出しになる、夜の歓楽街。
文明の象徴である、電球やLED。それらをふんだんに活用し、眩い光に満ち満ちているこの場所は、まるで昼間のように明るい。そのせいか。車窓越しに見上げた夜空は、少しだけ白っぽい膜のようなもので覆われていて……星々は殆ど見えなかった。
タクシーが辿り着いたのは、少し小高い場所にある高級ホテル前。
入口脇の植え込みから、暖色系のスポットライトが建物に向かって伸び、その陰影をくっきりとさせる。
「この部屋に行って下さい」
隣に座る水神が胸ポケットから紙を取り出し、人差し指と中指で挟んで僕に寄越す。
「呉々も、粗相のないよう……お願いしますよ」
「……」
冷酷に光る眼を向け、僕に釘を刺す。
タクシーを下り、半ば緊張しながらエントランスへと足を踏み入れる。
広いロビー。高級感漂う様々なオブジェ。ガラス張りの壁際に置かれた、豪華なクリスマスツリー。
フロントを通りすぎ、待機しているエレベーターに乗り込む。
行き先は最上階。VIPルーム。
ボタンを押した指先が、震える。ドアの上部に表示されている階数が上がっていく度に、鼓動が速くなり……胸を突き破ってしまいそうな程、強く激しく脈打つ。
チン、
エレベーターが止まり、滑らかにドアが開く。と、会場前の廊下には、参加者だろう人達が屯っていた。
「……」
何だか、場違いな気がする。
目の前にいるのは、芸能人のような煌びやかなオーラを放つ、スマートカジュアルコーデの男女。
ガードマンだろうか。ドア前に立つのは、強面で体格の良い二人組の男性。
「……あの」
黒尽くめのその男性に怖ず怖ずと声を掛ければ、訝しげな眼で僕をジロッと見下げた。
「あれ、さくらくん?」
背後から声がして振り返れば、そこに居たのは、数人の若い男女を侍らせた──森崎悠仁。
「来てくれて嬉しいよ」
「……」
「まぁ、ここで立ち話も何だから。入った入った!」
森崎が片手で払えば、二人の厳つい男性がドア脇へと避ける。
馴れ馴れしく僕の肩に腕を回し、綻ばせた顔を見せると、そのまま部屋の中へと僕を連れ込んだ。
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