15 / 52

第15話

××× 時刻は22時──人々の欲や本能が剥き出しになる、夜の歓楽街。 文明の象徴である、電球やLED。それらをふんだんに活用し、眩い光に満ち満ちているこの場所は、まるで昼間のように明るい。そのせいか。車窓越しに見上げた夜空は、少しだけ白っぽい膜のようなもので覆われていて……星々は殆ど見えなかった。 タクシーが辿り着いたのは、少し小高い場所にある高級ホテル前。 入口脇の植え込みから、暖色系のスポットライトが建物に向かって伸び、その陰影をくっきりとさせる。 「この部屋に行って下さい」 隣に座る水神が胸ポケットから紙を取り出し、人差し指と中指で挟んで僕に寄越す。 「呉々も、粗相のないよう……お願いしますよ」 「……」 冷酷に光る眼を向け、僕に釘を刺す。 タクシーを下り、半ば緊張しながらエントランスへと足を踏み入れる。 広いロビー。高級感漂う様々なオブジェ。ガラス張りの壁際に置かれた、豪華なクリスマスツリー。 フロントを通りすぎ、待機しているエレベーターに乗り込む。 行き先は最上階。VIPルーム。 ボタンを押した指先が、震える。ドアの上部に表示されている階数が上がっていく度に、鼓動が速くなり……胸を突き破ってしまいそうな程、強く激しく脈打つ。 チン、 エレベーターが止まり、滑らかにドアが開く。と、会場前の廊下には、参加者だろう人達が屯っていた。 「……」 何だか、場違いな気がする。 目の前にいるのは、芸能人のような煌びやかなオーラを放つ、スマートカジュアルコーデの男女。 ガードマンだろうか。ドア前に立つのは、強面で体格の良い二人組の男性。 「……あの」 黒尽くめのその男性に怖ず怖ずと声を掛ければ、訝しげな眼で僕をジロッと見下げた。 「あれ、さくらくん?」 背後から声がして振り返れば、そこに居たのは、数人の若い男女を侍らせた──森崎悠仁。 「来てくれて嬉しいよ」 「……」 「まぁ、ここで立ち話も何だから。入った入った!」 森崎が片手で払えば、二人の厳つい男性がドア脇へと避ける。 馴れ馴れしく僕の肩に腕を回し、綻ばせた顔を見せると、そのまま部屋の中へと僕を連れ込んだ。

ともだちにシェアしよう!