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第18話

「もしかして、こういう場所は苦手?」 「……」 「早くここを出たい、って。顔に書いてあるよ」 「……え、」 言われて僕は、片手で頬を覆い隠す。と、その様子を見た樫井がクスクスと笑う。 「ごめんごめん。……実は、俺も苦手なんだよ」 そう言って樫井が、憂いを帯びた笑みをみせる。 「俺さ、森崎さんにスカウトされてこの業界入ったし、その後も色々お世話になってるからさ。……無下に断れなくて」 「……」 「君は?」 ワァ──!! キャァアア──!! 瞬間、背後から激しい歓声が上がる。 と同時に照明がパッと消え、妖しげな色のスポットライトに替わり、切り人々が押し寄せるDJブースから、ノリの良いアップテンポの曲とスクラッチ、そして重低音が響き渡る。 「君の名前、教えて」 一瞬で変わる空気。 それに飲まれ圧倒する僕に、樫井が顔を寄せて違う質問をする。 「……さくら、です」 ガンガンと響くアップテンポの激しい曲調。薄闇に、妖しげな光を放ちながら回るカラーボール。そのせいか、思考回路が次第に鈍っていく。 「さくら、か……」 穏やかで、柔らかな声。 クイとシャンパングラスを傾けた樫井が、僕に手を伸ばす。 「……」 その指先から腕の付け根へと、ゆっくり視線を辿っていけば……肩越しから眩い光が射し、思わず目を瞑る。 目の奥を突き刺す様な痛みに堪え、伏せ目がちに瞼をそっと開けると……頬に、樫井の指先がそっと触れる。 「少し、震えてる?」 包み込むような甘い声に誘導され、怖ず怖ずと視線を持ち上げる。 「……可愛いね」 綺麗に口角を持ち上げた唇が、甘い声で囁く。 「え……」 聞き間違い、だよね。 男の僕を、可愛いだなんて。 華やかな世界には、もっと可愛い子や綺麗な人がいるというのに…… ──つぅ、 耳朶に触れ、きゅっと摘まんだその指が、肌の上を滑らせながら顎下へと移動する。 折り曲げた人差し指でクイッと顎を持ち上げられ、戸惑いながらも樫井秀孝を見つめていれば、その瞳が薄く閉じられ、唇が迫る。 「んっ、……」 抵抗するのも忘れ、重ねられる唇。 柔らかくて、甘い匂い…… 誘導されて唇の門戸を僅かに開けば、そこから侵入する熱い舌。 「……ん、ゃ……、」 顔を少し傾け、拒絶の意思を示せば……僕の頬裏を柔らかく撫でた舌先が引っ込められ、ゆっくりと唇が離れていく。

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