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第19話

……はぁ、はぁ…… 色気を孕んで濡れる、二つの瞳。 それが、僕を間近で捕らえる。 「……」 ……どうして…… どうして樫井秀孝が、僕にこんな事をしたのか……理解できない。 突然の事で、頭が追いついていけない。 キャアアァアァ──!! ウォォオオ──!! マイクパフォーマンスと共に過熱する、ギャラリーの雄叫び。 再び別の(リズム)が流れ、スクラッチと重低音が不規則的に鳴り響く。 はぁ……はぁ……、 それらの熱狂した振動を全身で受けながら、鋭利な衝撃が脳幹を貫く。 途端に歪む、樫井の笑顔。 半歩後退るものの、手の指先が痺れて、全身の血液が沸騰したように……熱い。 「……あ、」 樫井の顔、だけじゃない…… 瞬きも忘れて視線だけを動かせば、視界全体が大きく歪み、脳内がグラリと揺れる。 「大丈夫?」 後ろに蹌踉めいた僕の身体を、伸ばされた樫井の片腕に支えられる。 「……」 はい…… そう答えたつもりなのに、自分の声が聞こえない。 立ち篭める、甘い匂い。 沸き上がっていく、はしたない熱情。 身体から力が抜け、指先からシャンパングラスが滑り落ちる。トンッ、と樫井の肩口に頭を預ければ、甘っとろい匂いが鼻腔を擽り、胸の奥の柔らかい所を締め付けられる。 「……」 早く……退かなくちゃ…… 頭の片隅では、そう思っているのに。思うように身体が動かなくて。瞼が……重くて…… 「何処か、休める所にでも行こうか」 「っ、……!」 背中を擦られ、吐息混じりに囁かれれば、その温もりや熱にあてられて、ズクンと身体が反応してしまう。 こんなの、おかしい…… そう感じながらも、樫井に弛緩した身体を支えられながら、このパーティ会場を後にした。 * 何処を歩いているのか、解らない。 頭の中が、グラグラする。 そのせいか。床がグニャリと曲がり、打ち寄せる波のように迫ってくる。 ふらつく足元。そのうねりに飲まれぬよう、樫井の腕を必死に掴む。 ……はぁ、はぁ、はぁ、 バサッ、 いつの間に……辿り着いたんだろう。 薄暗い部屋のベットに倒され、僕の顔を挟むようにして、樫井が両手を付く。 「……苦しい?」 上から覗き込んだ樫井の瞳が、何処からか漏れ入る僅かな灯りを吸収し、飴玉のように甘く光る。 「あつ、い……」 肌を覆う布が……邪魔…… 乱れる呼吸を繰り返し、飴玉の瞳をぼんやりと見つめながら……服の裾を捲り上げ、上気した肌を空気に曝す。

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