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第30話 警告

××× あれから数日。 体調もだけど、気持ちが落ち着くまでバイトは休んでいいと凌に言われて。……何となく、学校にも行ってない。 「……」 ずっと、引き篭もってた。 凌と会った事で、蟠っていた感情は無くなっていった筈なのに。 このアパートに戻って、一人になってから……あんな奴の思い通りになってしまった憤りが、まただんだんと膨れ上がってしまって。 ……でも、それだけじゃない。 本当の意味での『身代わり』を初めて知り──竜一に刻み込まれた熱が思い出される度に、思い知らされる。 今でも僕は、竜一の事が……好きなんだって…… * 「……姫!」 その呼び名が聞こえた途端、びくっと身体が震える。 小春日和のせいか、比較的気分が良くて。冷蔵庫の食材が底をつきたのもあって、久しぶりに外出したというのに。 怖ず怖ずと振り返れば、そこにいたのは──凌の後輩。 細身の身体。低い僕とそう変わりない背丈。幼さの残るやんちゃな顔立ち。顎先まで長い髪は、少しウェーブ掛かっていて、毛先に行くほど赤い。 「……え……」 ……何で、この人が…… 驚きを隠せないでいると、男が明るい笑顔を見せる。 「やっぱ、覚えてなかったッスか。 ……俺、ハイジと一緒のチームにいた、元宮類ッス」 「……」 「仲間からは『モル』って呼ばれてたんッスけど……」 『何だ、モルじゃねぇか……』──瞬間、太一の声が脳内に響く。 「……あ、」 そうだ。 以前太一に絡まれた時、間に割って入って助けてくれた人だ。 「ハハッ!」 僕の反応が面白かったのか。顔を綻ばせたまま声に出して笑う。 「……でも、モルって……何で……」 素朴な疑問を口にしながら、その理由を太一が口走っていたのを何となく思い出す。 「あー、それはッスね! 苗字と名前の頭文字を取って、『モル』。 それと、何か揉め事がある度に、真っ先に俺が飛ばされるんスよ。 つまり。生け贄的な意味での、モルモットの『モル』ッス」 「……」 明るくそう言ったモルが片手を頭の後ろにやり、少し照れ臭そうに笑う。 「まぁ、立ち話も何なんで。何処かお茶でもどうッスか?」 その屈託のない笑顔につられて、自然と僕の口角が少しだけ上がる。 「……うん」

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