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第31話

大通りに面した、全国チェーンのファミリーレストラン。休日のランチ時とあって、家族連れや私服の学生集団で混雑していた。 案内されたのは、窓際のボックス席。人の多い場所は久々だったせいもあって、ざわざわとした雑音が煩いと感じながらも、それ程気にはならなかった。……寧ろ、何だか落ち着く。 「姫は……」 黒のキャップに白パーカーのフードを被ったモルが、砂糖とミルクを入れたコーヒーを掻き混ぜながら何処となく言いにくそうに口を開く。 「チームがバラバラになった後、どうしてたんスか?」 「……」 瞬間、溜まり場で遭った忌まわしい出来事が脳裏を過る。 「俺は、ハイジの一件があってから、リュウさんの下に付いてたんで。状況があんまりよく解んないんスけど。 確か、ハロウィンの夜ッスかね。突然リュウさんに呼び出されて、……あっ、俺、そん時まで、リュウさんの運転手やってたんッスよ! で、車回してリュウさん乗っけて、溜まり場のアパートに向かったんッスが。リュウさん、部屋に入ってから全然出てこないんで、心配で様子を見に行ったんッスよ。 そしたら、太一と、太一の腰巾着が何人か床に転がってて──」 「……」 「リュウさん、ソイツらを……ボッコボコにしてたんッス」 ……え…… ドクンッ、と心臓が大きな鼓動を打つ。 ……竜一が、太一達を……? ビジネスホテルから僕を追い出した後……そんな、事が…… トクトクと心音が速くなり、胸の奥が甘く柔らかく、疼く。 もしかして、僕のために……なんて。 ……そんな……まさか、ね…… 「……」 小さく視線を揺らし、目の前にあるティーカップに手を伸ばす。自惚れてしまった自分を、誤魔化そうとしながら。 「んで、その後。愛沢さんの所に配属(とば)されて……今に至るんスよ」 さらりとそう言ったモルが、コーヒーカップの取っ手に指を掛ける。 「……」 ……え、配属された……? 先程とは違う、嫌な感覚。 鉛を飲み込んだように、心が重苦しい。 凌は、ホストとかじゃなくて……ハイジとは別の、チームリーダー……だったの……?

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