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第33話
×××
週明けの学校。
暫く休んでいたせいで、終業式がいつだったか忘れてしまっていたけど。……こう誰もいないと、流石にもう過ぎてしまったんだと気付く。
閑散とした校内。人気の無い空間は新鮮に感じるけれど。静けさよりも、寒さが肌に染みる。
コツコツ…と、僕の小さな足音が薄暗い廊下に響き、侘しさを更に助長させた。
教室へ行こうとして、足を止める。
『いつでもおいで』──優しげに微笑む化学教師の顔が、ふと浮かんだ。
いる筈なんてないと思いながらも、踵を返し足先を化学実験室へと向ける。心の何処かに、淡い期待を持ちながら。
僅かに開いた引き戸。
ゆっくりと開けて中を覗けば、案の定そこはガランとしていた。
……やっぱり、いないか。
静寂を保つ教室内をひと通り見回した後、ドアの取っ手に指を掛ける。と……
──ガタンッ、
突然大きな音が、黒板横にあるドアの向こうから聞こえた。
そっと、教室内に足を踏み入れる。怖ず怖ずとそのドアに近付き、銀色のノブを掴んでゆっくりと回す。
「……いててっ、」
開いたドアの向こう──視線を少し下げたそこに、白衣姿の化学教師が尻餅をついていた。
「やぁ。恥ずかしい所、見られちゃったね……」
あはは、と恥ずかしそうに照れながら、僅かにずり落ちた眼鏡を持ち上げて、柔らかな笑顔を浮かべる。
「それで、今日はどうしたの? もう冬休みだから、学校に来なくても良いのに……」
「……」
「もしかして、知らないで来ちゃったの?」
よいしょ、と腰を上げ、軽くお尻を叩いた先生が、揶揄うような目付きで僕を見る。
「……、うん」
「あはは、そっか」
正直に答えれば、納得したように口角を持ち上げて柔らかく微笑む。
「……ちょっと、こっちおいで」
手招きをされ、化学準備室の中に入る。
背後でバタンとドアが閉まれば、実験器具を収めた大きな棚が幾つか並んでいるせいで、狭い空間が更に狭くなったように感じる。
パチン、
暗幕カーテンが締め切られたまま、教師が室内の照明を落とす。
「……え、」
すごい……
下から光が放射し、天井いっぱいに無数の小さな明かりが灯る。
それは正に、プラネタリウムそのもので。こんな満天の星空を、僕は実際に見た事がない。
「……綺麗」
そう呟くと、一緒に天井を見上げていた教師がクスッと笑う。
「そうだね」
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