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第37話
ガクガクガクガク……
手足の指先が、呼吸が、精神 が、身体が……勝手に震える。
サッと血の気が引き、上手く……立ってられない。
『……ぃやっ、!』
バスローブの男がベッドに乗り、暴れる女子高生の上に跨がると、その頬を二度引っ叩く。
『うぅ″っ……、』
抵抗を止め、大人しくなった所で制服の合わせ目を引き千切り、男がそこに顔を埋める。
「まぁこんな感じで、女の子を撮影してくんだけどね。……慣れるまでは、映らない所からカメラ回して練習していいから」
「……」
「それとも──」
チラリ、と横目で此方を見た男が、言い終わらないうちに僕の肩に腕を掛け、顔を近付ける。
「女役でも、やる?」
「……ぇ……」
間近にある男の唇が、ボソリと耳元で囁く。揶揄うように。含み笑いをしながら。
「男に掘られた経験……あるんだってね」
「……」
「なんなら俺が、相手役でもしてやろうか?」
「──!」
なん、で……この男が……
……そんなこと、……知って……
耳に掛かる、生暖かな吐息。
その息遣いに悪寒がし、首を竦める。
……嫌だ……
そんなの、絶対嫌だ。
ここから早く、逃げなくちゃ……
そう思うのに。身体が……言うことを聞いてくれない。
「……って、冗談冗談!」
バシンッ、
青ざめているだろう僕の背中を、男が笑いながら思いっ切り叩く。
「ここは、女子高生 専用のAV撮影所。援交経験ある子が、もっと金稼ぎたくて流れ着く場所」
「……」
「みんな合意の上だから。撮影中、暴れたり泣き叫んだりしても真に受けんなよ。全部、演技なんだからさ」
僕の反応を見てニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべた男が、宥めるように僕の背中を二度軽く叩く。
「……」
……全部、演技……?
そんな風には、見えなかった。
画面越しから流れる、悍ましい光景。異様な雰囲気。必死の抵抗。叫び声。
少なくとも僕には、本物の恐怖 にしか見えない。
乱暴にされ。傷モノにされ。
例え合意の上だったとしても、聞かされていたものとは違っていたんじゃないか。
「……」
それに。
こんな痛々しい映像に興奮する人達が、世の中にいるかと思うと……吐き気がする……
「OK? じゃ、そこのソファに座って待ってて。準備が終わったら、他の奴が呼びに来るから」
「……」
そう言って、バスローブの男が直ぐ隣にある応接間のソファを指し、奥の撮影現場へと捌けていった。
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