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第47話 闇夜の星

××× ………… …… 遠くで、話し声がする。 ……一体、誰が…… 何の話をしているんだろう…… 導かれるまま意識が浮上し、重い瞼を僅かに持ち上げる。 「……姫っ、!」 ピクン、 本能的に身体が跳ね、間近で響いた声に脳幹を突き刺される。 微睡みから一気に引き戻される現実。ゆっくりと瞼を持ち上げ、視線を横に向ければ…… 「よかったッス……」 僕を覗き込む、赤い髪の男性。 撮影の時、無表情でカメラを回していた──モル。 あの時の表情から一変。安堵に満ちながら眉尻を下げ、涙ぐむ表情豊かなモルに戸惑いを隠せない。 「……あ、そのままで大丈夫ッスよ」 身体を起こそうとして、直ぐに制止される。下肢の方から痛みが走り、どちらにせよ起き上がれそうにない。 「……」 身体に巻かれた、白いシーツ。まるで、ミイラみたいだ。 撮影は、もう終わったんだろうか。モル以外の撮影スタッフが見当たらない。 閉まったドアの向こうから、何やら人の話し声と物音がする。 意識を手放している間に、一体何があったんだろう。ゆっくりと瞬きをしながら、まだ上手く稼働できない頭でぼんやりと考える。 「リュウさんが、助けに来てくれたんッス」 偵察するように辺りを見回す僕の心情を察知したんだろう。モルがその答えを告げてくれる。 「……ぇ」 一瞬、聞き間違いかと思った。 瞼を大きく持ち上げ、瞳を小さく揺らす僕に、真っ直ぐな瞳を向けるモル。 「……」 信じられない。 ……そんな事、あり得ない。 そう思うのに。肌の表面を、ゾクゾクとした感覚(もの)が駆け抜けていく。 「姫がここに来るって知って、何かヤバい予感がしたんで……リュウさんに、思い切って連絡してみたんっス」 「……」 「下っ端のお願いなんて、聞いて貰えるか解んなかったンすが……」 そう言って嬉しそうに微笑んで、照れたように俯く。 『リュウさん、ソイツらをボッコボコにしてたんッス』──喫茶店でモルに告げられた時の光景が、ふと脳裏を過る。 「……」 ……竜一が…… 本当に、僕を……? 粟立つ二の腕をそっと手のひらで包み、きゅっと掴む。 「……姫は、リュウさんの『女』、だったンすね……」 口角を緩く持ち上げ、目尻を柔らかく下げた……陽だまりのように温かい、モルの笑顔。 ……え…… その刹那──それまで存在感の無かった心臓が、トクトクと強く、激しく鼓動を打ち始める。

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