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第4話
――ぎしり、と、ベッドが軋む音がする。
身体が、重い。
手足が自由に動かなくて、薄く瞳を開ける。
視界に入るのは見慣れた部屋と、薄暗い中で、自分の上にのし掛っている男の身体、男にしては綺麗な顔。
「あ、起きた」
響く声が残念そうに言うけれど、虎次の頭ではすぐには理解できない。クエスチョンマークが頭の上を飛び交って、男を見る。
男は、綺麗な顔で笑った。
「ねえ、お兄さん」
「……、」
「僕ね」
「なん、だ」
絞り出した声は掠れていた。
寝起きの所為もあるだろうし、首を押さえ付けられている所為でもあるだろう。喉が痛い。
「童貞なんです」
「は?」
幽霊からのまさかのカミングアウトに、間の抜けた声が出る。
「実は、あ、これ生前の話。実は僕、売り専をやってまして」
「うりせん」
「男の人相手に身体を売る仕事です」
「へ、へえ?」
「何人もに抱かれてきたんですが」
「経験豊富ですね」
「抱いたことはないんですよね」
「そうですか」
「童貞のまま死んでいくなんて、あんまりだと思いませんか」
「童貞のまま死んでいく人なんて、たくさんいると思うけど」
視線を逸らして言い返すと、にこ、と男がわざとらしい笑みを浮かべて、喉を押さえる手に力を入れてくる。
「っ、か、は、」
「ふふ、……言うこと聞いてくれないと、呪い殺しちゃうかもしれません」
「っは、……え、笑顔で言うことじゃねえよなそれ、」
虎次の背中に、ぞわりと鳥肌が立つのは、紛れもなく、恐怖の所為だ。黒く切れ長の瞳が、冷たく見下ろしてくる。
「僕に黙って抱かれててください」
死んでも嫌です、なんて言ったら、本気で死にそうな雰囲気だった。
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