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4 ゲー研部でお近付き

 翌朝、竜生(りゅうせい)は早めに出て、バス停で(けい)を待った。しかし幾ら待っても彼が来る気配はない。  先に行かれてしまったのが濃厚だった。遅刻する訳にはいかないので、竜生は待つのをやめ、バスに乗った。 ――桃田(ももた)君に避けられちゃったかな?  意気消沈した面持ちで、竜生は満員のバスに揺られた。  今まで生きて来て、人から避けられるような経験をした事がなかった竜生は、戸惑いを隠せなくなる。 ――このままじゃ、絶対、仲良くなれないよな…。  桃田蛍に対する気持ちが恋なのか、ふと、竜生は改めて考えてみる。客観視してみるが、まだ即答出来る感じではなかった。 ――だけど、彼に会いたい。  もう一度、彼に近付けたら、それが恋なのか分かるような気がした。  待ちに待った放課後、竜生は臆せずにゲーム研究部の部室の扉を潜った。  十二畳程の室内の中央に長机が二つ並行して置かれており、その上にはPCのモニターが各五台ずつ並んでいる。元々、少人数制の部活のようだった。  数輝(かずき)と立ち話中の蛍の方向へ一歩踏み出した竜生のもとに、すらりとした長身の女子生徒が立ちはだかった。 「部長の杏橋舞(きょうばしまい)です。あなたが見学の…?」 「あ、はい。志柿(しがき)竜生です。」  眉目秀麗を全身で表現したような彼女に、竜生は反射的に姿勢を正した。  丸襟に水色のリボンタイがポイントになっている半袖のブラウスに、ブルーがベースカラーになっているチェックのスカートという、可愛いと定評のある賀茂泉高の女子の制服を着ていても、彼女はどこか大人びている。   「ゆっくりしていってね。」  舞は優しく微笑むと、艶やかなロングヘアをさらりと揺らして、自身の立ち位置へと帰っていった。  ゲーム研究部、二学期最初の活動が開始される。  部員は男子生徒が三人、女子生徒が三人の合計六人で、長机を挟んで綺麗に男女別れて着席した。PCモニターが視界を阻まなければ、合コンの開始状態になっている。  顧問の先生は来ないようだが、誰も気にしていない。  竜生が後ろで佇んでいると、優香がやって来て、蛍の横に座らせた。今日の優香は三つ編みにはしておらず、低めの位置のツインテール姿だ。竜生は感謝を込めて、優香に会釈した。  一向に竜生を視界に入れる気配のない蛍に、竜生は思い切って囁いてみる。 「桃田君…。今朝は会えなかったけど、大丈夫だった?」  蛍は溜息を吐くと、仕方なさそうに竜生の方を見た。 「…大丈夫だったよ。あのさ、人前でそういう風に訊くの、やめてくんない?」  不機嫌そうに蛍に窘められ、最もだと思った竜生は素直に反省した。ほぼ毎朝、痴漢に合っている事実を、彼がひた隠しにしていると知っていたのに、大失態を犯した気分になる。 「ご免…。」  蛍は答えずに、ホワイトボードの前に立つ、部長の舞の方へと視線を移した。 「引退した三年の先輩方、特に部長の為に、BLゲームを製作します。シナリオ原案は全員で、スクリプト関連は男子が担当。立ち絵と背景画は女子が担当。サウンドは私が担当します。細かい分担に関しては、各自で相談して下さい。」  舞の口から、竜生が聞き慣れない単語がスラスラとを紡いがれていった。ただ、ゲームを製作するというところだけは分かったので、予想と大きく違った活動内容なのを思い知らされる。  不意に眼鏡女子の絢音(あやね)が、鋭い挙手を見せた。 「18禁ですか?」 「残念ながら、顧問の桑島先生から15禁くらいにするように言われました。」  当たり前のように舞が応答する。 「つまり、監禁、レイプ、スカトロ、二輪挿しは出来ないというワケですね!」 「激しい性描写は無しでお願いします。」  竜生は出て来た単語に、周囲の反応を窺ったが、誰も特に過剰反応している者はいなかった。 ――これって、普通…?  ホワイトボードの前に集まり、意見を交換しつつ何やら書き込んでいく部員達を、置いてきぼりを喰らった竜生は、ただ見守るしかなかった。  そこへ舞が、先程まで蛍が座っていた椅子に腰を下ろした。 「うちの部の印象はどう?」 「思っていたのと違いました。」  多少、疲弊した笑みを見せ、竜生は正直に答えてみた。それに対して舞が、優しく頷いてみせる。 「そうね。…先代の人達がBL好きだったから、こんな感じに今はなってしまっているけど、本当はちゃんとゲーム全般を取り扱っているのよ。…入部、どうする?」  舞の問い掛けで、入部可能である事が窺えた。竜生は未知の部活動であるにも関わらず、入部する事を一大決心する。全ては蛍に近付きたい一心であった。 「…ゲームのプログラムとかは興味あるので、入部してもいいかなって思ってます。皆さんが許可してくれるのなら、明日からでも…。」 「そう、じゃあ、これ…。」  舞は微笑むと、A5サイズの入部届をあっさりと手渡した。  それを遠目から見ていた蛍が、竜生に駆け寄って来た。 「え?よく考えてから入部した方がいいと思うよ!」 「考えたよ。これから登下校、よろしくね。桃田蛍君!」  竜生は取り敢えず、蛍と仲良くなる事を目標にした。

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