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5 リアルNG腐男子
部活動の時間が終わると、今日は蛍 の方から竜生 に近付いてきた。自然な流れでバス停までの道程を数輝 を含めた三人で歩く。
校門を出た処で、逆方向に帰る数輝と別れた。
蛍に避けられていると思っていた竜生は、肩を並べて歩けている事に少し感動した。しかし、蛍の態度は何処かしら友好的ではない。
「本当に入部する気?」
「明日からね。…ダメなの?」
「…って言うか、志柿君、本当はゲームもBLも興味ないんだろ?」
痛い処を付かれた竜生だったが、涼し気に遣り過ごす。
「なくはないよ。BLに関しては、…まあ、一応、男同士のやり方知ってるし。理解ある方だと思うよ。」
竜生の言葉に、蛍の黒目がちな瞳が丸く見開かれた。
「どうやって知った?…漫画とか読まなそうなのに。」
――何故、漫画!?
竜生は首を傾げたが、気を取り直した。
「アナルセックスは男女間でもある事だし、男同士なら必然的にそのやり方になるでしょう?」
「ちょっと!発言には注意しろよな!」
蛍は慌てて辺りを見回した。距離は空いているが、部活帰りの生徒達が数十人、ちらほらと歩いている。
「ああ、ご免…。」
大きな声で話したつもりはなかった竜生だったが、素直に謝った。
バス停に着くと、バスが調度到着し、二人は数人の生徒と共に乗り込んだ。朝と違って座席は空いている。
蛍が中央の空いている二人掛けの座席に座ると、竜生もその横に並んで座った。
「別に隣に座らなくてもよくない?」
「どうして?」
蛍の質問に竜生が質問で返すと、蛍は小さく「別に…」と呟いて黙った。
三十分近く沈黙は嫌だな、と思った竜生は、先程、気になった事を質問してみた。
「…桃田君は漫画で勉強しているの?」
「何の話?」
蛍はきょとんとした表情を見せる。
「さっきの…男同士のやり方についてとか…。漫画で知ったのかな、と思って。」
途端に蛍の色白の頬が赤らんだ。
「漫画で勉強って言われ方すると、すげぇ恥ずかしいんだけど。…確かに、男同士のやり方は同人誌で知ったんだけどさ。」
「ゲー研部の女の子の影響?」
「違うよ。BLは…数輝が姉ちゃんのBL同人誌を見つけて来て、こっそり読んだのが切っ掛け。好きなアニメのBLで、キスシーン見て凄い衝撃が走ったんだ。それが小六の時。…それから、中二の時、18禁の(BL)同人誌見て、男同士でも…出来るって分かった。」
竜生はBLを再度認識した上で、蛍の話を彼なりに理解した。
「同人誌が桃田君達のエロ本なの?」
「俺の場合、エロ本って感覚だけでBLは読んでない。…二次元のヒーローとかが、同性に恋する背徳感がキュンとするんだよ。それに二次元の男の子はリアルには絶対ないキュートさがあって、萌えポイント高いんだよな…。」
先程から蛍の赤面は続いている。
――君はリアルだけど、十分キュートだよ。
竜生は心裡で呟いた。
「…志柿君、本当にBL大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。…先週まで世話になってた叔父さんは、美少女フィギュアとか集めてるような人でね。百合って言うんだっけ?女の子同士がHな事する漫画は読ませてもらったよ。」
「え?…百合…?」
蛍は竜生から少し体を離して、眉を顰めた。
――BL好きなのに、百合読む奴は軽蔑!?
竜生は叔父の嗜好を話してしまった罪悪感もあって、話題を変える事にした。
「桃田君って、童貞?」
「あ、当たり前だろ!…俺、今月やっと十六になるんだからな!」
不意打ちが過ぎたのか、蛍は慌てふためいた。
「そうなんだ、おめでとう。」
「…志柿君は…経験あんの?」
訊いたので、訊かれるのは想定済みだった。竜生は正直に答える。
「うん。…童貞じゃないよ。」
瞬時に、蛍が数ミリ距離を取ったように感じられた。
「引いてる?」
年齢が若いと、この手の話は称賛されるか敬遠されるかのどっちかだ。
「…いや。ただ、俺とは住む世界が違うって感じただけ。」
「桃田君は経験したくないの?怖い?」
明らかにテンションが下がった蛍に、竜生は話題の選択を間違えた事を悟ったが、彼の初心な反応に問わずにはいられなくなった。
「大人になって、好きな人が出来てからでいいって思ってるだけだよ。」
「…もしかして、俺の事、穢れてる扱いになった?」
「いや、人それぞれだと思うし…。」
完全に否定された訳ではないと気付くと、竜生は自身のフォローを試みた。
「俺だって、自分の意志だけで経験した訳じゃないから。…友達がしてるとこに遭遇しちゃってさ、その流れで参加させられちゃったんだよ。」
それを聞いた蛍の体が、目に見えて竜生から離れた。
「え!?最初が3Pって事?…それ、ないわ…。」
どうやら竜生の言い訳めいた真実は裏目に出てしまい、今度はあからさまに引かれたようだった。
「女の子の時はね。…男の子の時は違ったよ。」
焦った序でに、竜生はしなくていいカミングアウトもしてしまった。
「男の子!?…もしかして、後ろ経験済み!?」
「突っ込む方でね。」
蛍は左手で右肘を抱え、自身の許容範囲を超えている内容に狼狽えた。
「何、この人?…何処から迷い込んで来たんだよ?」
「ロンドンからだよ。」
「そ、そっかぁ!なら、仕方ないな!…って、なるかー!」
「わぁ、桃田君、乗り突っ込み、出来るんだね。」
竜生は蛍を軽く称賛した後、経緯を話す事にした。
「男の子の方はさ、俺が日本に帰るって言ったら告白されて、どうしても最後に抱いてくれって言われて、断れなかったんだ。」
「ストーリー的にはBL展開してるかもだけど、やっぱり三次元は無理!志柿君で想像とか無理!」
BL好きを公言していた筈の蛍に否定され、竜生は探るように彼を見つめる。
「別にしなくていいけど。…桃田君、潔癖症?」
「そんなんじゃないけど、でも…。リアルに考えると、お尻の穴だぞ!排泄するとこだし、絶対、汚いだろ!」
「ちゃんとゴム使ったし!…でも、中、綺麗にしてたよ。女の子より熱くて気持ち良かったし…。」
極限まで顔を紅潮させた蛍は、両手で耳を塞いだ。
「そこまでにして下さい!具体的には、もういいです!」
少しの沈黙の後、蛍の顔色が戻ったところで、竜生は話を再開した。
「…バイセクシャルとか考えられない?」
「否定するつもりはないけど。…ただ、自分が当事者だったり対象だったら、受け入れられないかも。腐女子も腐男子も、リアルはノーマルな恋愛思考な人が殆どなんだ。」
「当事者にならないか…。梨尾君も言ってたな。それが腐男子ってやつなんだ?」
「大抵の人達はね。…セクシャルマイノリティとは、ちょっと違うからな。」
壁を感じた竜生だったが、まだ始まってはいない、と不屈の精神で気を取り直した。
「俺とは友達になれない?」
ストレートな問いに、蛍の瞳が揺れた。
「友達…にはなるよ。同じバス停利用してて、同じ部活なんだし…。」
「じゃあ、連絡先、教えて。」
「うん。」
蛍がスマートフォンを取り出した。
初めて自分に対して従順な姿勢の彼を見た気がして、竜生は心を擽 られた。
「いいの?本当に?」
「何で疑う…?」
「だってさ、今朝、俺と一緒になりたくなくて、早く行っちゃったんじゃないかなって思ってたからさ。」
朝から気にしていた事を、竜生は吐露した。
「今日は日直で、先生に頼まれた事があって、たまたま早く出たんだよ。他意はない。」
蛍の答えは言い訳には聞こえなかったので、竜生は一安心した。
「そうだったんだ。じゃあ、明日は同じバスで行けるかな?」
「時間が合えばね…。」
蛍との距離は微妙に縮まらなかったが、連絡先が交換出来たことで、竜生は一歩前進出来た気になった。
――架空の男同士の恋愛を見るのは好きだけど、ゲイになるつもりはないのか…。腐男子って難しいな…。
再度、腐男子への見解を見直す必要があるので、帰ったらネットで検索してみようと思う竜生だった。
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