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6 リアルOK腐男子

 桃田蛍(ももたけい)という存在に近付く為に、「腐男子」及び「腐女子」というワードに関連するものをネットで調べ、知識を高めていっている竜生(りゅうせい)は、同時に、不慣れなゲーム研究部の部活内容にも必死で喰らいついていっていた。  竜生が初参戦したゲーム研究部の部活内容は、恋愛シミュレーション・ゲームを製作するという事で、登場人物の細かな設定や、大まかなストーリーを決めていくというものだった。それはBLという特殊なジャンルでもあり、入部したての竜生は意見を言えずにいた。  各自で粗筋を文章に起こすよう、部長の舞が指示を出した。  困惑中の竜生は、蛍に視線を走らせる。彼は二年の優香(ゆうか)と何やら密談中で、入っていく隙がない感じだった。 ――自力でやるしかないか。主人公が”攻”で…、複数の”受”を作ればいいんだよね。  竜生が深い溜息を吐いていると、副部長である数輝(かずき)が竜生に話し掛けてきた。 「志柿(しがき)君、困ってるようだけど、『主人公×生徒会長で下克上ラブ』とかのみの書き方でいいよ。細かい内容については、シチュエーションに拘りのある桜井絢音(さくらいあやね)と俺が決めていくから。」 「そう。助かるよ。」  竜生は少し気が楽になり、数輝に笑みを見せた。 「君の実体験を具体的に書いてくれてもいいけど。」  数輝に含みのある笑みを返されて、竜生は笑顔を半減させて固まった。 ――それって…?  竜生が問い掛けようとした時、数輝が先に話を切り換えて来た。 「志柿君、今週の土曜日、空いてる?」 「うん?部活ないんだっけ?」 「ないんだよね。午後から俺の家で、例のゲーム製作で使うソフトの使い方、教えようかと思ってさ。」  賀茂泉(かもいずみ)高は土曜日も十二時四十分まで授業がある。今まで帰宅部だった竜生は、初めて土曜に部活がない事を知った。 「自宅にあるの?」 「父と兄がプログラマーなんだ。色々、揃ってるよ。…因みに、部室にある機材の殆どが、梨尾(なしお)家プレゼンツだから。俺の兄貴がゲー研部の創始者なんだよね。」  数輝が一年生にして副部長である所以を知り、竜生は深く納得した。 「そうだったんだ…。お兄さんも居たんだね。」  竜生が何気に言った言葉に、数輝がぴくりとした。 「ああ、もしかして、姉の存在を蛍から訊いてた?」 「”腐”の師匠らしいね。」 「同人誌はこっそり借りたんだ。彼女的には世間に公表してない筈だから、本人に師匠の自覚はないよ。」 「姉弟で同じ趣味なのに、内緒にしてるの?」  竜生の問いに、数輝は無言で返した。そして、違う話題を振る。 「…蛍はどう?」  急に問われ、竜生が答えに困っていると、数輝は更に囁くように言葉を続けた。 「バイセクシャルだったら、蛍は有りだろう?」  竜生は数回軽く頷くと、ちらりと蛍に視線を走らせた。 「筒抜けなんだ。…まあ、口止めしなかったからね。…有りか無しかで言ったら、有りだよ。…君は無しなの?」  相手が腐男子だからなのか、竜生は通常なら言葉を濁すところを正直に答えた。 「俺は傍観者だからね。…妄想だけはよくするんだ。蛍が担任に関係を強要されるとか、クラスの男子数人に輪姦されるとか…。」  数輝の言葉に、竜生は衝撃を受ける。 「それ、友達に酷くない!?」 「ただの妄想だし、迷惑掛けてないよ。」  酷い内容を口にしたとは思えないくらいに、数輝は飄々としている。 「そんな妄想して、オカズにしてるの?」 「教えない。」  即答で否定されたが、竜生は疑いの目を持った。 ――絶対、してないって事はないだろ!?  ふと、竜生は腐男子にも色々あるのだと気付いた。 「梨尾君はリアルOKな腐男子なんだね。」 「うん。傍観者だけどね。…家に来た時さ、ゲイセックス体験談、詳しく聞かせてよ。」 ――逆にコイツはドン引きさせてやりたい!リアル、舐めんなよ。  竜生は笑顔で誤魔化し、数輝を戒めたくなるのを心裡に留めた。

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