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8 桃たん攻略法

 竜生(りゅうせい)が男性とした性行為の体験談の後、(けい)は一人、取り付く島もない感じで帰ってしまった。 「蛍、帰っちゃったけど、よかった?」 「うん。…梨尾(なしお)君に訊きたい事あったし。」  本当は蛍を追い掛けたかった竜生だったが、この機会に数輝(かずき)と二人で話してみる事にした。 「俺に?何を?」 「梨尾君はさ、桃田(ももた)君の事、オカズにしてるだけ?」  根拠はないが、疑っている事を竜生は質問した。 「BLネタに萌えてるだけ。」  そう答えた数輝の顔色は何も変わらない。 「本当に?…結構、ヤバい妄想してたじゃないか。」 「妄想の中の蛍はビッチなんだよね…。」 「仕方ない風に言うなよ。」  心裡で留めておく筈の言葉を、竜生は思わず口にしてしまった。慌てて咳払いをして誤魔化した竜生だったが、数輝は特に気にしていない様子だった。 「…桃田君を恋愛対象に見てるんじゃないんだね?」  竜生は確認するように問った。 「…見てないよ。普通に友達だし。」  少し間が空いたが、数輝からは否定の言葉が返ってきた。 「じゃあさ、俺が桃田君と付き合いたいって言ったら、どうする?」  竜生は半分、冗談とも取れる言い方をした。 「蛍を落としたいんだ?」  数輝は腐男子ならではな感じで、話に乗ってきた。 「言い方、悪いな。…桃田君は頑なにリアルな男同士の恋愛はダメって言い張ってるし、告白とかしたら避けられるようになってしまうかな?」  今度は冗談めいた要素を取り除いて、竜生は数輝に訊いてみた。  暫く無言が続く。 「あの、梨尾君…?」  考え込んだような表情の数輝を心配して、竜生は声を掛けた。その直後、数輝は興奮したような表情で口を開いた。 「俺的には夢の展開かな!あの純情ぶってる奴が、ビッチになっていく様を想像するだけで興奮する!告白とかいいから、強制的に体を繋いでしまったら、どうだろうか?」  竜生は溜息を吐く。 「君に話したの、間違いだったかな…?」 「間違ってないよ。蛍の事は誰よりも分かっているからさ。攻略法、教えてあげるよ。」  瞬時に数輝は、協力的な姿勢を見せ始めた。 「攻略法?」 「そう。攻略できれば、桃田蛍ビッチ化計画は成功する。…それは君の手腕に掛かってる!頑張りたまえ!」  竜生は数輝に肩を叩かれ、その手を軽く払った。 「Hが目的じゃないって、一応言っておく。」  数輝は苦笑してから、今度は真面目なアドバイスを繰り出し始めた。 「そのスタンスは正解だよ。…蛍は少女漫画風の恋の始まりに心ときめくと思う。その点でいうと、志柿君はイケメン王子って感じだし、ルックスは非常にポイントが高いと思われる。…だけど、今日のリアルゲイ体験談は、かなりのマイナスポイントだったよね。」  数輝が肩を落として見せ、竜生は少しだけイラっとさせられた。 「…させたの、君だけどね。」 「まぁ、それはそれでスパイスになってるから!マイナスから始めて、ギャップで落とす展開にすれば上手くいくね!」 「ギャップ…?」 「そう。二人きりになって、蛍が身構えても、全然、手を出す気配がなく…という安心感を与えると、蛍の方が気にし出すかもね。」  竜生はその展開には疑問を感じた。 「…どうかな?手を出さないのが当たり前だし、そんなに警戒されるとは思わないけど。」 「周りが煽るから、十分、警戒されるよ。」  周りという言葉から、数輝を筆頭に、ゲーム研究部の梅村優香(うめむらゆうか)桜井絢音(さくらいあやね)の”腐”のグループが、竜生の頭の中に浮かんできた。 「…そうですか。」  竜生は一抹の不安を覚える。 「最初はそんなとこから…。で、蛍が意識をし始めてから告白する。まあ、健闘を祈るよ。」  再び数輝の部屋でゲーム製作用ソフトのレクチャーを受け、一人で操作出来るようになった竜生は、独り寂しく帰途に着いた。  思わず数輝に話してしまったことから、蛍に対する気持ちは恋で間違いないのだと、噛み締め直した竜生だった。

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