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13-1 お試し許容範囲

 (けい)に告白の返事を保留にされたまま放課後を迎えると、竜生(りゅうせい)は蛍と二人で帰途に着いた。  客の少ないバスの中、そこはかとなく緊張を継続している竜生に、蛍は他愛ない会話を振ってくる。 「実家に一人暮らしって、大変じゃない?」 「…うん。でも、気楽にやってるよ。たまに叔父さんが様子見に来てくれるし。」  竜生は一旦、返事待ちの姿勢を取っ払うことにした。 「夕飯とか、どうしてるの?」 「自炊する時もあるけど、部活に入った最近では、スーパーやコンビニでお弁当買って済ませたりしてる。…栄養面とか、ちゃんと考慮して選んでるし、問題ないよ。…ゴミは増えるけどね。」 「やっぱり大変そうだな。…洗濯とか、片付けとか、やる事多いだろうし、出迎えがない家に帰るのって、寂しくない?」 「少しはね。だけど、寂しいのを気にしなければ、後は…まあ、家事は家電に任せて、何とかやっていけるよ。あー、あと、心霊系の番組は見ないようにしてる。」  最後に付け加えるように言った竜生の言葉に、蛍は意外そうな顔をした。 「…幽霊、ダメな人?」  蛍の問に、竜生は正直に答える。 「いないと思っても、見た直後は…暫く怖がってしまうんだよね。」  蛍はくすりと笑ったが、直ぐに同意した。 「ああ、俺も一緒かな…。」  結局、そんな会話のみで、自宅最寄りのバス停に到着し、二人はバスを降りた。 「志柿(しがき)君。」  蛍に改めて名前を呼ばれ、竜生は遂にその時が来たのかと身構えた。 「今日さ、…志柿君の家に寄ってもいい?」  竜生は肩透かしを喰らいつつ、蛍が、やたら竜生の家の話題を続けていたのには、そんな意図があったからだったのだと気付かされた。 「いいよ。テスト勉強、(うち)でしていく?」 「うん。…許容範囲も試したい…し。」  蛍が小さく呟き、竜生は聞き逃さなかったものの、自身の耳を疑った。 「え?…何の範囲?」  訊き返したが、それは軽くはぐらかされる。 「コンビニかスーパー、寄ってく?…夕飯が必要なんだろ?」  バス停近くのコンビニエンスストアに寄った後、蛍は新鮮な面持ちで、いつもは歩かない道を歩いた。 「俺、この辺歩くの、中学の時、引っ越してきた以来かも…。」  学校を基準に考えた場合、蛍の家は行きのバス停側に有り、竜生の家は帰りのバス停側にある。  九歳の時、父の仕事の都合でロンドンに移り住む事になった竜生は、蛍が住んでる家の辺りは、殆ど記憶がなかった。 「俺が日本(こっち)で中学行ってたら、もっと早く出会ってたんだね。」  改めて同じ校区内に住んでいる事に気付くと、竜生は変えられない過去を想像してみた。  「そうか…。そうだったんだね。」  蛍も感慨深げに頷いた。

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