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13-2 お試し許容範囲
バス停から八分程歩いた距離にある、竜生 の家に着いた。
周りがモノトーンの家が多いのに対し、竜生の家は紅殻 色が特徴的な北欧風で目立っていた。
広い庭には木製のブランコと、滑り台まである。
中も北欧風で、リビングに行くと、インテリアになっている電気式暖炉があった。その上には家族写真が数点飾られている。
「お父さんって、ハーフ?」
写真を一枚、一枚、丁寧に見ていた蛍 が問う。
「よく間違われてるけど、クォーターだよ。お祖父 ちゃんがブルガリア人とのハーフなんだ。」
初めて聞く事実に、蛍は目を丸くする。
「じゃあ、志柿 君にもブルガリア人の血が流れてるんだ。」
「見た目には全然、現れてないけどね。」
竜生は自分をそう評価したが、足が長く、スタイルがいいのは外国の血の所為なのだと、蛍は秘かに納得した。
「ブルガリアって、ヨーグルトしか浮かんで来ないな。」
「俺もだよ。ブルガリアに行ったことないし。」
蛍の正直な言葉に、竜生も賛同した。
「…妹、可愛いね。何歳?」
今度は妹の方に、蛍の興味が移ったようだった。
「十一歳だよ。こっちに帰って来たら、絶対ロンドン帰りを猛アピールする嫌なキャラになると思うよ。桃田君は兄弟いる?」
適当に妹の評価を落として、竜生は蛍の家族に話を振った。
「弟が一人。今、中二。」
「そうなんだ。似てる?」
「似てない方かな?見た目、野生児っぽいし…。」
少し間が空いた後、蛍が竜生の手首を掴んだ。
「ねぇ、触ってよ…。」
不意打ちを喰らった竜生は、丁寧に確認する。
「それって、俺が触っても嫌じゃないか確認するって事で、…朝よりも、もっと直接的に触って貰いたいって事?」
蛍は頬を染めて俯くと、竜生から手を離した。
「直接的とか…わかんないけど…。」
「…じゃあ、ハグしていい?」
竜生が優しく問い掛けると、蛍は頷いた。
竜生はゆっくりとしたモーションで、包み込むように蛍を抱擁した。最初は硬い印象だった蛍の体も、時間が経つと力が抜け、その体を預けてきた。
「ハグはOK?」
耳元で竜生が確認すると、恥ずかしそうに蛍は頷いた。そして次のステップを申し出てくる。
「次は…キスだよね?」
竜生は思わず抱擁を解除し、蛍の顔を覗き込んだ。
「え?…キス、してみるの?…本気で言ってる?」
「うん。…だって、付き合えるか、どうかって、キス出来るか出来ないかで、はっきりするんじゃない?」
「…そう?…だね。」
付き合う前のステップではないと思った竜生だったが、一理あると思い、試みる事にした。
「…目、閉じたらいい?」
蛍の初心な反応に、竜生は今までになく鼓動を高鳴らせた。
「…うん。」
竜生は蛍の頬に軽く触れてみる。
『腐が付く子は、みんなエロスを欲しているのだから、此方側に引き込むには、それが一番手っ取り早いのよ。』
一瞬、優香 をモノにしたがっている舞 の言葉が過ったが、竜生はそれを素早く打ち消して、ソフトに接するように心掛けた。
様子をみるように一瞬だけ触れるキスをして、それから一秒毎に角度を変えて数回、蛍の唇にキスを繰り返した。そして最後に、彼の鼻の頭にキスをして終わらせる。
「…どう?」
「嫌じゃない。…けど、キスって、もっと長く唇に触れたままだと思ってたから、少しイメージと違ってた。」
蛍が素直に感想を述べた。
「長く触れると、舌を入れちゃいそうになるから…。そんな事したら、桃田君、引いてしまうだろ?」
「嫌なら抵抗するから、…試してみてよ。」
蛍に挑まれると、煽られたようになった竜生は、逃がさないように彼の小さな顔を両手で包んだ。
「じゃあ、もう少し力抜いてね。唇も…少し開いて…。」
言われるままに薄く開かれた蛍の口を唇で塞ぐと、竜生は内 を舌で探った。硬直して、反応を返さない蛍の舌に刺激を与える。
蛍が息を止めてしまっているようなので、それに気付いた竜生は早目に解放した。
「大丈夫?」
「…うん。」
竜生は放心している様子の蛍の手を引き、ソファに座るように促した。
「…紅茶でも、淹れてくるよ。」
そう言って、竜生がキッチンへ移動しようとした時、蛍が縋り付いてきた。
「待って!…その前にもう一回して。」
思わぬ蛍の要求に、竜生は全ての思考を持っていかれた。
「優しいヤツ?それとも激しいヤツ?」
「…激しいヤツ。」
ソファに蛍を押し倒すように座らせると、竜生は蛍のリクエストに応えるように激しく唇を奪った。最初から舌を差し入れ、絡ませると、先程は微動だにしなかった蛍の舌が、拙いながらも絡み返してきた。
甘く痺れたような感覚が二人を満たしていく。
竜生の手が蛍のズボンのベルトに掛かった時、びくりとした蛍が初めて抵抗を見せた。
「あ…!それは、待って…。」
長いキスが中断される。
「ご免。調子に乗った…。」
我に返った竜生は、慌てて謝った。
「帰る…。」
ふらりと蛍が立ち上がり、鞄を手にして玄関へ向かった。
取り返しのつかない事になったのではないかと、竜生は焦り始めた。慌てて蛍を追う。
「桃田君!」
もう一度、謝ろうとした竜生に、蛍は潤んだ瞳で笑顔を見せた。
「志柿君…。俺、嫌じゃなかったから。」
蛍を見送った後、竜生は人知れず胸を撫で下ろした。そして改めて、蛍の言動を振り返る。
――あれ?今のが返事…!?
嬉しさの反面、釈然としない気持ちが竜生の中に広がった。
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