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15.5 桃たんの個人的考察 (飛ばし読み可)
桃田蛍 の人物説明はオタク特有である。
なので、分かる人には分かるが、一般的には伝わらずに終わる事が多かった。しかし、そんな彼に着いて行こうとしている人物がここに一人――。
いつもの帰りのバスの中で、何の話からか、蛍は同じ部活の部員達のイメージを竜生 に語り始めた。
「杏橋 先輩の第一印象は、自分の美貌を大絶賛しながら高笑いするイメージだったんだけど、実際は男前で、逆に自分の容姿端麗さを分かってない、残念な人だって分かった。…でも、未だに裏生徒会の会長やってそうなイメージは、払拭出来ないんだよね。」
――裏生徒会?
最初に、ミス賀茂泉 に選ばれた部長の舞の印象についてが語られ、聞き手役の竜生は、半分理解して、半分出来ないといった状況に陥る。
続いて蛍は、黙っているとお人形さんといった見た目の梅村優香 についてを語る。
「梅村先輩は地獄の少女感が漂ってるよね。いっぺん、死んでみる?とか訊かれそうで怖い…。」
――地獄…?
竜生の疑問符を無視するように、蛍は次々と部員のイメージを上げていく。続いては、BLなら何でも来いの雑食腐女子である絢音 のイメージが語られる。
「桜井さんは、凛々しくて目力が凄い。あの有名な殺し屋みたいに、多分、急に背後に立ったら殺されそうな気がする。」
――有名な殺し屋…?
「桑島 先生は白い執事だね。」
顧問をしている桑島は、四十代前半の数学教師だ。
「羊?」
イメージがそぐわず、竜生は質問を挟んだ。
「羊じゃなくて、執事だよ。知らない?妖怪をウォッチするアニメに出てくる白い奴だよ。声が似てるせいなのかな…?」
蛍が首を傾げ、一緒に首を傾げた竜生だったが、蛍と違って何も頭には浮かんでいなかった。
「松山先輩はね…。これ、分かってくれる人、あまり居ないんだけど…。」
ゲーム研究部唯一の、男の先輩である松山に話が移った。
――今までも俺は殆ど分かっていないけどね…。
竜生は内心、苦笑する。
「鉄分足りなくて五寸釘を加えてる、呪い好きな少年を、毎回、何となく思い出すんだ。松山先輩は扱いやすい、良い人なのにね!」
――さっぱり分からないけど、いいキャラじゃないのは窺えた…。
そこで蛍のイメージトークが終了しそうになった。
「じゃあ、梨尾 君は?」
まだ出て来ていない名前を出し、竜生が催促する。
「数輝 ?…う…んと、これは俺じゃなくて、同じクラスの蓮実 君って子が言ってたんだけど…。ノートに名前書いたら死んじゃうヤツの、死神みたいな感じで俺の横に居たから、びっくりした事があったんだって!」
それに関して竜生は、初めてキャラクターを思い描く事が出来た。
「じゃあ、桃田君はノート拾った少年?」
「今のは分かったんだ?」
蛍が逆に驚いた顔をしてみせる。今まで竜生が何ひとつ理解していない体 で、語っていた事が窺えた。
「実は英語版のコミックスを読んだ事があるんだよ。」
「そうだったんだ。…俺は、あんな企んだ風じゃないと思うけど?」
「まあ、そうだね。」
――後で全部ググってみるか…。
記憶力のいい竜生は、覚えている限りのワードを検索して、蛍の思い描くキャラクターを突き止めてみようと決心した。
ふと、竜生は自分のイメージが気になり始めた。恐る恐る尋ねてみる事にする。
「因みに俺は、なんて説明してくれるの?」
一瞬の沈黙が訪れた後、蛍が少し困ったように口を開いた。
「志柿君は…まだ印象固まってないから。その内、なんかに例えてあげるよ。」
――えぇ!?彼氏なのに印象固まってないって、ちょっとショックだ…。
軽く心理的打撃を受けた竜生だったが、後日、彼のイメージは別の人物によって知らされる事となった。
部活中、立ち絵のモデルを竜生にやらせていた絢音が、何気に囁いた。
「そう言えば、桃たんね、志柿君に初めて会った日、クラスの女子に『映画に出て来そうな正統派王子に出会った!』って、言ってたらしいよ。」
絢音は蛍とは隣のクラスで、体育が合同になる為、その時に蛍のクラスの女子から得た情報らしかった。
「へぇ、そうだったんだ。」
絢音の情報に浮かれた竜生は、部活の帰り道、早速、蛍に遠回しな質問をする。
「桃田君は…どんな王子様が好きなの?」
「え…?それ訊くなら、どんなプリンセスが好きなのかの間違いだろ!…何!?それ、どこ情報?」
徐々に顔が紅潮していく蛍を、暫くの間、堪能した竜生だった。
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