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16-1 受+受&攻+攻
とある昼休み、一年三組の教室に、二年の梅村優香 が蛍 を訪ねてきた。
「桃たん、部室行くよね?」
「行きますけど、梅村先輩は今日は行かないんですか?」
優香のクラスの場所の方が部室棟寄りにあるのに、彼女がわざわざ立ち寄ってきた為、何か伝言を頼まれるのだろうと蛍は予想した。
「行くよ。一緒に行くのダメなの?」
「いえ…。」
予想に反した答えにより、二人は一緒に部室へ向かう事になった。
ゲーム研究部の一部の部員は、昼休みを部室で過ごす習慣がある。
みんなクラスが違う為、いつもは各々向かうのだが、今日は珍しく先輩の優香と肩を並べて蛍は歩いた。
二人共、その手には、母親の手作り弁当が携えられている。
「桃たんさ、志柿 君と付き合い始めたでしょ?」
不意に声を潜めて、優香が鋭く質問した。蛍は慌てさせられる。
中間テスト間近の頃、竜生からの告白を切っ掛けに付き合い始め、それから僅か二週間足らずの内に指摘されたのだ。
「え?ま、まさか!俺、リアルはダメな腐男子ですよ!」
「隠せてないから!…あ~あ、私、梨桃 派だったのにな。まあ、柿桃 も有りか…。」
一切の否定の言葉を受け付けない、といった感じの優香は、後半、溜息混じりに呟いた。
「柿…?」
「志柿君のガキって、柿でしょ?」
「ああ、そうですね。…あの、隠せてないって、どういう風に?」
蛍は指摘を受けた気掛かりなポイントを、詳しく訊く事にした。
「例えば、人が居る時と居ない時の微妙な距離間の違いとか、すっごい分かり易いよ。桃たんの話し方も、志柿君みたいにソフトになってきてる気がするし…。」
「そんな!…本当ですか!?」
いつも男らしく話すのを心掛けている蛍だったが、知らぬ間に竜生の影響を受け、変化させられていた事に気付かされた。
「印象的には、本来の受々 しい桃たんの姿が、やっと見られたって感じ。」
「何ですか、ウケウケシイって…。」
「だって、桃たんは受でしょ?」
「先輩的には、でしょう?」
自分が”受”認定されているという事を、少数派に留めたい蛍だった。
それを優香は真っ向から無視して、話を進める。
「桃たん的受って実際、どうしてるの?志柿君が全部、してくれる感じ?」
「…向こうは経験者なんで。…って!まだ、全然、何もしてないですよ!」
当たり前のように問われ、流されるように答えた蛍は、後半、全力で否定した。
「志柿君、ガツガツしてなさそうだもんね。」
「…先輩の方はガツガツされてるんですか?」
優香の溜息を見逃さなかった蛍は、思わず、優香に想いを寄せている舞の事を思い浮かべて質問してしまった。
それは、ちょっとした地雷原となったようで、カッと顔が赤くなった優香の右手が、蛍の首を絞め始めた。
「ちょっとスキンシップ過多なだけよ!」
「あ、ご免なさい、ご免なさい!」
途中、階段から落とされそうになりながら許しを請い、漸く蛍は優香に解放された。
部室棟に近付いてきた辺りで、蛍が問う。
「…先輩、最初からリアルの同性愛者って、大丈夫でした?」
その問に、美少女がしてはいけない内容を、優香が真剣な表情で口にする。
「大半のは大丈夫じゃなかったかな。リアルの男同士の場合、シーツが茶色い染み塗れになるとか聞くと、やっぱり幻滅しちゃうし…。でも、桃たんは綺麗だから、全然いける。最初に梨尾君とのカップリング妄想した時は、かなり興奮しちゃったよ!…梨尾君も、それなりに可愛いしね。」
周りに人気がなくて良かったと思いつつ、蛍は数輝の件に気を取られた。
「数輝が?…可愛い?」
笑顔で頷く優香に、蛍は腐女子目線が理解できないと初めて思った。
「…身を任せるって、怖くない?」
再び、優香が『柿桃』の体 で質問してくる。
「未知の世界だと、戸惑いますよね…。でも、それ以上に相手が信頼できる人なら、後悔はしないと思います。」
蛍も『杏梅 』の体 で答えを返した。
「なんだか経験者な発言ね。…話が聞けて良かった。」
二人は部室へ辿り着いた。
――杏橋先輩、告白しちゃったんだな…。
蛍は秘かに、女子の先輩二人の間に起こった事を確信した。そして、ふと、今日の昼休みの冒頭を思い出す。
――もしかして、俺も梅村先輩に告白されたって噂、流れるかな…?
少しだけの期待と心配を胸に秘めた蛍だったが、周囲の反応としては、姉弟、若しくは姉妹がじゃれ合っているのを、微笑ましく見守る感覚になっていたので、何の噂も立つ事はなかった。
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