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16-2 受+受&攻+攻
日直だった竜生 は、放課後、日誌を仕上げてから、いつもより遅く部室へ向かった。
部室へ入ると、部長の舞が一人いるだけだった。
「あの…みんなは…?」
険しい表情でPCの画面を見つめる舞に、気圧されながら竜生は声を掛ける。
「あら、志柿 君。…今日は背景の資料にする写真を撮るとかで、デジカメを持って、みんな出掛けて行ったわよ。」
竜生に気付いた舞は笑顔を浮かべたが、何処か元気がない様子だった。現在製作中のゲームのサウンドを一人で担当しているので、苦労しているのだろうと竜生は推測する。
「作業、大変そうですね。…手伝いましょうか?」
楽譜を読むことが出来る竜生は、気を利かせてみる。
「有難う。でも、此方は順調だから、大丈夫よ…。」
舞は丁寧に書き下ろされた譜面を数枚見せた。その出来に、竜生は流石だと目を見張る。作業の進捗状況に問題はないようだった。
「志柿君は、カップリングの不一致って分かる?」
「…いえ。あ、でも意味合いは何となく分かります。」
最近、BL通になってきた竜生は、”受”と”攻”の設定に、人によって相違がある事を言っているのだろうと、直感した。
「優香がとある二次創作物のカップリングについて、抜き打ちのように訊いてきたのよ。」
竜生は舞が想いを寄せる優香の名前が出たところで、彼女を悩ませている原因が、そっちだったのか、と秘かに納得した。
「小柄で色白の主人公と、方や団長と呼ばれているような色黒でガタイのいい男では、主人公の方が受だと思うのが普通じゃない!?だけど、その団長は総受ポジションにあるというのよ!信じられる!?」
「ああ、えー…っと、難しいですね。」
竜生も舞と同じ立場だったら、と置き換えて考え、彼女に深く同情した。
「私のリサーチ不足だったのもあるけど、今までの優香の思考の流れからでは考えられないわ…。」
舞は一際大きな溜息を吐く。
「志柿君、カップリングの不一致には、相容れない空気が生まれるから、あなたも気を付けてね。」
「はい…。」
舞の落ち込み具合から、竜生は自分にも起こり得る事なのだと胆に銘じた。
「桃田君とは上手くいってるみたいね。…羨ましいの一言しかないわ。」
「あ…、分かりますか?」
周りには隠しているつもりの竜生だったが、舞には特殊な観察眼が備わっているので、正直に答えた。
「私は告白してみたけれど、現在、保留中。加えてカップリングの不一致で停滞中…。何か打開策はないかしら?」
先輩に対してアドバイスなど、おこがましいと思いながらも、竜生は親身になって考えを巡らせる。そして、ひとつの答えを導き出した。
「以前、腐女子や腐男子について調べまくっていた時に、男装コスプレイヤー同士でキスしているのを見た事があるんですが…。成り切ってしまえば、キスも自然な流れで出来るのかもしれませんね。」
それを聞いた舞の瞳が、鋭く輝いた。
「それは…気が付かなかったわ。そう…。そうなのね…?」
舞が含んだような笑みを浮かべる。
背筋を一瞬、冷たくした竜生だったが、舞が立ち直ったようなので良しとした。
自分の持ち場へ移動しようとした竜生に、舞が声を掛けて引き止める。
「それで、志柿君。…どんなコスプレする?」
――え?俺も…?
竜生は断る為の言い訳を、試行錯誤し始めた。
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