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22-1 知られた関係
年が明け、一般的なお正月休みが終わった頃、竜生 と蛍 は部活で製作しているノベルゲームのデバッグ作業をする為に、数輝 の自宅を訪れていた。
数輝の家は、父と兄がプログラマーをしているとかで、ハイスペックな最新のPCが揃っている。
今日は特別に許可を得たという事で、数輝の兄の、ハッカーが潜んでいるような部屋にて作業を行った。
蛍がトイレに立った隙に、数輝が背後から近付いて、竜生の耳元に囁いた。
「桃田蛍ビッチ化計画、どうなってる?」
竜生は眉を顰めると、デスクトップのPCにて作業をしていた手を止めた。
「そんな計画に加担した覚え、ないんだけど。」
「二人の事、全然、報告してくれないからさ。…ねぇ、もう、ヤる事ヤッた?」
数輝が竜生の座る椅子を回転させて、自分の正面に向けた。
「…なんで報告しなきゃならないんだよ?」
「そりゃあ、友達だから?」
「梨尾君は訊かなくても分かるんじゃないの?」
「うん…。想像だと、挿入はまだだけど、気持ちイイ事はしてる。どう?」
数輝が謎の洞察力を披露してくる。竜生は言い当てられた事を、顔に出さない努力をした。
「勝手に想像してろ。」
「え、教えてよ!教えてくれないと、俺が志柿君、犯すよ!」
椅子を回転して逃げたい竜生だが、それは数輝の手によってガッチリと固定されてしまっている。
「怖い奴だな…。」
「話す?犯される?」
数輝の顔が近付いて来る。
「どっちも無しで…!って、おい!」
止める間もなく、竜生の右の耳朶に、数輝が軽く噛み付いた。
「キスも知らない奴が、やめろよ!」
顔を背けて拒絶する竜生の耳を、数輝は執拗に唇で追う。
「慣れた人で練習って、悪いコト?」
「合意じゃないと悪い事だよ!」
その時、スマートフォンのシャッター音が響いた。目をやると、戻って来た蛍が撮影をしていた。
「蛍君!これは…!…って、なんで写真撮った?」
「萌えシーン激写な感じで…?」
てっきり数輝との浮気を疑われるかも知れないと思った竜生だったが、腐男子の思考は少し違っていたようだった。
「蛍君、それ、消しなさい!」
「ケチ!」
少し揉めた後、何もなかったような装いで、三人は作業を再開した。
竜生がデスクトップのPCを、蛍は数輝兄のノートPCを借りて作業し、数輝は自分のノートPCで作業を進めていく。
部活で製作しているゲームを、みんなで手分けしてプレイした後、見つかった不具合を三人で修正しているのだ。
黙々と三時間が経過して、漸く作業が終わった。
ローテーブルで、床に座って作業していた蛍と数輝は、座ったまま手足を伸ばした。
「最終チェックは俺がやっておくよ。二人共、お疲れ!…じゃあ、これから三連結してみよう!」
数輝の急な発言に、竜生は過剰反応を見せる。
「なっ…何、言い出してんだよ?」
対して、蛍は意味が分かっていない様子だった。
「なんなんだよ、三連結って?…ムカデ人間的な事じゃないよね?」
とあるホラー映画を連想した蛍は、身震いしてみせる。
「志柿君が蛍にINして、俺が志柿君にINすると、三連結完了!」
数輝の雑な説明で、下ネタだった事がわかった蛍は、あからさまに侮蔑の視線を数輝に送った。
「そんなの有り得ないだろ…。」
「やってみたら凄い事だって分かるぞ!」
数輝の態度に、蛍は苛々を爆発させる。
「ヤるわけないだろ!俺、数輝の前で痴態晒す気ないし!」
「まだ童貞で処女だから、怖くて出来ませんって、正直に言えば?」
「…って、おもえも童貞で処女だろ!」
「チッ!」
「舌打ち!?」
幼馴染同士の言い合いの後、譲歩するといった口振りで、数輝が条件のようなものを提示する。
「じゃあ、二人がキスしてるとこ、見せてくれたら帰っていいよ。」
「なんでだよ!?」
蛍は素早くツッコミを入れ、今まで黙って見守っていた竜生も顔色を変えた。そんな二人に畳みかけるような言葉を数輝は放つ。
「だって、二人、付き合ってるんだろ?」
「え…?」
蛍が固まった。彼は幼馴染である数輝には、竜生との関係を隠し通せていると今まで思っていたらしい。
「キス、だけだからね。」
竜生は席を立ち、床に座る蛍の傍まで行くと、彼の頬に手を掛けた。
「あ、ちょっ…、竜せ…?」
驚いている蛍の唇が、竜生のそれに塞がれる。深いキスに見せ掛けて、舌は絡ませないままに数秒間で唇を放した。
「これでいい?」
竜生が数輝に確認すると、呆気に取られていた数輝は我に返った。
「あ、録画するから、もう一回!」
「このサービスは一回きりです。…じゃあ、俺達、帰るから」
スマートフォンを準備する数輝を尻目に、呆然としている蛍を立たせた竜生は、彼を連れて数輝の家を後にした。
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