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23 真犯人が語り出す?
冬休みも終盤に差し掛かり、新学期間近になってきた頃、竜生 は、友人であり、同じゲーム研究部の副部長である、梨尾数輝 の家へ一人、訪れた。
部員全員で製作しているノベルゲームの中に、自分と同じ名前のキャラクターが出てくるので、気になって、そのパートをプレイしてみた竜生は、選択肢を選ぶ場面で、選んだのに先に進めない選択肢がある事に気付いた。数輝に問い合わせると、入力ミスだと言われ、出来れば修正して、なるはやで届けて欲しいと言われた。
そんな理由で翌日、バスで片道四十分掛けて数輝の家まで来たのに、玄関先で出迎えた数輝の態度は非情なものだった。
「データ、メールに添付してくれても良かったのに。」
「…それ、昨日言ってよ。」
USBメモリーを手渡して、竜生はがっくりと肩を落とした。
「いやぁ、来てくれる気、満々だなと思ってさ…。…どうせだから、上がってけば?調度、誰もいないし。」
数輝が家の奥を指す。広い家の中は人の気配がなく、静まり返っている。
「いや、この後、用があるから。」
「蛍 とデート?」
「そんなとこ…。」
竜生が断ると、数輝が竜生の腕を掴んで引き寄せた。
「ねぇ、キスぐらいさせてよ。」
そんな数輝に怒ったような目をした竜生だったが、不意を突くように数輝の唇に触れるだけのキスをした。
数輝は驚いたような顔をし、続けて後悔したような色を瞳に浮かべると、一歩、後退った。
「梨尾君の本当の気持ち、分かっちゃった…。」
数輝の顔色を見逃さなかった竜生は、真っ直ぐに彼を見つめた。
「…は?」
「君は最初からずっと、蛍君が好きなんだろ?」
数輝が否定の言葉を発しようとするのを、竜生は言葉で遮る。
「だけど、今までの関係が壊れるのが怖くて、告白出来ずにいる。…俺に絡んでくれば、間接的に蛍君を感じられると思った?」
「…何、言ってんの?」
数輝は取り繕い、いつもの飄々とした自分に戻ろうとする。
「もう惚けたりするなよ。今、キスしてみて分かった。君が好きなのは蛍君だ!」
竜生の指摘に、数輝は吹き出した後、高らかに笑いだした。
その笑いが治まった後、数輝は不敵な笑みを浮かべ、竜生を見据えてきた。
「…流石は名探偵!…君の言う通りだ。俺は腐男子と見せかけて、正真正銘のゲイだったんだよ!」
竜生は思わぬ衝撃を喰らった。
――何故、名探偵…?そして、何、この真犯人は俺だった的なカミングアウト…。
数輝は真犯人の告白宛らに語り始める。
「小学校に入学して、俺は蛍に出会い、恋に落ちた。…最初は純粋に仲良くしたいだけだったのが、独占欲が生まれ、恋へと発展した。…男に恋なんて、子供ながらにおかしいと思いつつ、蛍を愛さずにはいられない俺だったが、小学二年の頃、同性愛という世界がある事を知り、男同士でも愛し合っていいと分かった!…そして俺が小六の頃、偶然、姉貴が腐女子になり、BL同人誌の存在を知った。…好きなアニメの二次創作物だったから、蛍に教えると、思いの外、蛍は喰い付いてくれて、これはイケると思ったよ。」
竜生は数輝の思惑に震撼させられた。
「君は…まさか、蛍君を秘かにゲイの道に誘い込もうとしていたのか!?」
「その通りだよ、名探偵君。」
竜生は過去の記憶を辿り、数輝の行動を洗い直してみた。
「…だから俺に、蛍君の前でリアルゲイ体験談を語らせた事があったんだな?」
数ヶ月も前の事だったが、蛍とすんなり仲良くなれなかった原因として、竜生の中に蟠 っていたものだった。
竜生は納得した後、ひとつの疑問に辿り着いた。
「…だけど、分からない事がある。そんなに前から蛍君が好きだったのなら、何故、俺と蛍君をくっつけようって思ったんだ?」
その問に、数輝は哀し気に微笑んだ。
「それは…ゲイの道へとリードする事を失敗してしまったからだよ。ゲイは、いや、蛍は…ゲイではなく、腐男子になってしまったんだ!しかもリアル否定派の腐男子に、だ!…男同士でヤれるという処まで教育したのに、ゲイを否定したんだよ、アイツは…。」
途中、噛みそうになりながらも、数輝は悲哀の念を込めて、言葉を続ける。
「そんな時に王子のような君が現れた。明らかにアイツは君を意識してて、…辛かったけど、アイツが男に目覚める切っ掛けになるなら、利用すればいいと思った。」
同情するべきなのか、竜生は複雑な心境に陥らされる。
「そんな風に考えてたなんてね、驚きだよ…。だけど、君の計画は半分成功して、半分失敗してしまったって事になるのかな?」
蛍と竜生が両想いになってしまった今、数輝の入り込む余地はないと考えたい竜生だった。
「どうかな?志柿 君が俺に同情してくれて、蛍をこっぴどく傷付けて捨ててくれたら、俺の想いは成就しそうなんだけど。」
数輝が探るような目を向けて来た。
竜生は即答する。
「しないよ。する訳ないだろ。…蛍君の彼氏の立場は譲れないからね。」
きっぱりとした態度で、そう言い残すと、竜生は数輝の家を出た。
「人選ミス、しちゃったってトコかな…。」
閉じられた玄関の扉に、数輝は溜息を落として鍵を掛けた。
竜生はバス停に辿り着くと、渦巻く不安に囚われている自分に向き合った。
――蛍君への本当の気持ちを、俺に知られてしまった梨尾君は、…これからどう出る?
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