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26 報告会?~BONUS TRACK~
三月、春休みが訪れた頃、夏休み明けから実家での一人暮らしを強いられていた、竜生 の状況が大きく変わった。
今年七月に帰国する事が決まっている父を、一人ロンドンへ残して、母と妹が二人、帰国してきたのだ。小学六年生になる妹の始業式に合わせようと、母が急に思い立ったらしかった。
今まで竜生の部屋で気兼ねなく、好きな時に好きなだけ、蛍 とイチャついていられたのだが、それが嘘のように難しくなってしまった。だからと言って、カミングアウトが時期尚早なのは、百も承知な現状であった。
そんな折、ゲーム研究部の先輩である杏橋 舞と、梅村優香 に駆り出され、蛍と竜生は水族館にてWデートをする事になった。
傍 から見ると、竜生と舞、蛍と優香のカップリングが成立して見える。その実、同性同士でくっついてしまっているという事は、誰も想像しないだろう。
ただ、その日の服装の色合い的に、女子二人は春先にも拘わらず、寒色系で纏まっており、男子二人は春を意識したようなアースカラーで纏まっている。分かる人が見れば、分かりそうな雰囲気でもあった。
水族館を出た後、そこから電車で移動して、優香推奨の真新しいカフェへ入った。
広い店内は女性客が過半数を締め、単独での男性客は見当たらない。その雰囲気に怯みを見せた男子二人に、優香が顔を綻ばせて、イケメン揃いのウェイターの給仕が売りなのだと教えた。
「なんかBL妄想掻き立てられるよね!」
他の女性客とは違った妄想癖の優香に、三人は苦笑させられつつも納得した。
壁際のテーブル席のソファ側に女子二人が落ち着いたので、その向かいの椅子に竜生と蛍が並んで座った。
注文した紅茶とケーキのセットが届いた頃、優香がキラキラした目を蛍と竜生に向けてきた。
「志柿 君と桃たんって、今、どんな感じ?」
優香の問に、竜生は反射的に辺りを気にした。隣の席との距離はまあまあある。
「どんなって…普通に付き合ってますよ。ねぇ…。」
「うん。お二人と変わらない感じですよ。」
竜生が同意を求め、蛍も合わせるように答えを返した。しかし、舞がゆっくりと首を横に振る。
「いいえ、恐らく、君達の方が進んでると思うわ。男は棒がある分、直ぐに結合してしまうから。」
「そうなの!?」
「いや、棒って…何ですか…?」
舞の衝撃発言に優香が喰い付き、竜生は惚ける方向で目を逸らした。舞は自然な流れでロックオン先を変更する。
「桃田君、処女じゃなくなったんでしょう?」
「あの、俺、そもそも男なので、ショ…ジョ…とか、そういうの言われたくないんですけど…。」
「だって、後ろ、使っちゃったんでしょう?」
周囲を気にする蛍に、容赦なく舞は問い詰める。そんな蛍に竜生は「上手くはぐらかすんだ」と、テレパシーを送った。
「使ったっていうか、使われたっていうか…。」
テレパシーは届かず、蛍が渋々答えてしまった。竜生は額に手を当て、嫌な展開を想像して眉間に皺を寄せる。
――言っちゃったよ。それじゃ、次の質問は…。
「どんな感じだった?」
予想通りの優香の質問に、蛍が答えるのを竜生は遮る。
「これ、セクハラですよね?」
「違うわよ。これは報告会よ。」
優香の代わりに、さらりと舞が否定して、状況を塗り替えてきた。
「そんなの聞いてないんですけど。それじゃ、お二人も報告してくれるんですか?」
竜生はセクハラ返しのつもりで、同じ条件を出すことにした。しかし、舞は全く動じる気配がなく報告に移る。
「ええ。私達はキスをして、気持ちいいトコを愛撫し合っているレベルよ。道具は入手していないから、物理的な結合はまだね。」
「え、舞ちゃん、私達も結合出来るんだ?」
優香が初めて得た情報に、目を丸くした。
「出来るのよ。特殊な道具が必要だけどね。因みに、その道具は志柿君と桃田君でも使用可能よ。」
舞の言葉に、蛍までもが身を乗り出した。
「え、それって、どんな物なんですか?」
舞の言う”道具”が思い当たった竜生は、慌てて蛍を止めに入る。
「蛍君、訊かなくていいから…!俺達はそんな繋がり方、絶対にしないよ!」
隣の席の客が席を立ち、店員が片付けに来たりと動きがあった為、一旦、話はそこで終了した。
その隙に何か別の話題を振らねばと、竜生は幾つかの情報を脳内で処理して言葉を弾き出す。
「梅村先輩的に、妄想を掻き立てられる店員はいましたか?」
「それがねぇ…。」
優香が神妙な顔付きをしてみせた。
「今、この場所で…志柿君と桃たんのカップルが最強だって実感した。…だから、桃たん総受けの柿桃ENDになりそうだよ!」
「え!?…俺を総受けにする必要あります?」
蛍は納得出来ずに、不満気な顔をした。それを見て、竜生は舞に問う。
「杏橋先輩的には…梅村先輩の総受けって有りですか?」
「ないわね。」
舞は即答した。
「優香が他で汚されるなんて、絶対に許されない事だもの。」
舞の答えに、一同が深く賛同した。
その一拍の後、優香が質問を再開する。
「…それで、桃たん、どんな感じだったの?…特に桃たんの後ろの状態を詳しく!」
逸らした会話が、無かったかのように話を戻され、竜生は慌てて阻止しようと動く。
「いや、それは…!」
そんな竜生を制して、蛍は一際、真面目な顔を作った。
「いいよ、話すよ。…女の人と違って、事前の準備が大変で、常日頃から腸内環境を考えるようになったんですよ。何か、いいサプリメントとかないかな…とか、探したりもしてて…。梅村先輩、知りませんか?」
その答えに優香は微妙な顔付きになった。
「知らない。…ってか、求めていた答えと違うんだけど。…でも、なんか頑張ってるみたいだから、許す。」
蛍の答えに、ほっとさせられた竜生だったが、彼の影ながらの努力を知り、申し訳ないような気持ちが湧いた。
四人がケーキを完食し、紅茶が残り少なくなった頃、そろそろお開きになりそうだと思った竜生は、伝票に視線を走らせた。
――ここも割り勘でいいんだよな…?
そんな宴もたけなわ感の雰囲気を打ち壊すように、舞が下ネタトークを再び投下する。
「桃田君の乳首はどう?」
竜生が酷くむせ返ったので、蛍が代わりに困惑した面持ちで答える。
「え?どうって…。ちょっと、そこは弱い感じ…的な?」
その答えに、舞は否定的な顔をした。そして不条理とも取れるダメ出しをする。
「志柿君、もっと攻めてあげて。男の乳首は前立腺と通じているって言うでしょう?」
「え?どういう事ですか?」
――食い付いちゃった…。
蛍の興味を他所に、竜生は口を閉ざした。
「乳首を弄るだけで、射精も可能という話よ!」
「いいわね、男の子同士って!」
舞から得た情報に、優香は目を輝かせ、蛍は驚きの表情のまま、深く頷いた。
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