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第8話 若葉

××× 『このままアパートに帰るの、怖くない?』──そう促されて向かった先は、大通りに面したファミリーレストラン。 暴漢に襲われたばかりで、この身体が人目に晒されるのは嫌だったけど。その言葉通り、被害者リストが存在する以上、いつまた誰に襲われるか解らず……怖くて。 ざわざわ…… 夕食の時間帯に差し掛かっているせいか、店内は賑やかで。脅える僕の背中にそっと手を添えてくれる。 不思議と楽になる呼吸。『大丈夫』そう言って、僕に寄り添ってくれたようで。 「お腹、空いてない?」 テーブルに案内され、男性と相向かいに座る。 「……」 今更になって、小刻みに震える指先。両手をテーブルの下に隠して俯けば、その視界の中にメニュー表が差し出される。 「遠慮しないで、何でも好きなもの頼んでね」 細くて長い、綺麗な指。その所作は色っぽさを孕み、男のそれとは思えない。 「……」 『おじさん』──そう言っていたけど。その表現がおかしいと思う程、若々しく見える。 指先を辿って視線を持ち上げれば、横髪に隠れた細い首筋から、甘い香りが漂ったような気がした。 「……どうしたの?」 ハッと我に返り、男性と目が合う。 切れ長の大きな二重。太くて長い睫毛。スッキリとして形の良い鼻。少し厚めの、血色のよい唇。 「……」 女性と言われても、違和感がない程美しくて。寧ろ、女性より女性らしくて。 見蕩れてぼんやりとしている僕に、瞳を柔らかく細めながらクスッと微笑む。 「……可愛い」 揶揄うように片肘を付き、首を少しだけ傾げてみせる。ただ……それだけなのに。しっとりと艶のある色気が漂い……ドキドキと心臓が高鳴り、堪えきれずに視線を逸らす。 窓の外を見ると、様々な色のネオンがチカチカと輝き、その中を様々な格好をした人達が行き交っている。 店の看板メニューであるハンバーグ定食を注文しタブレットをテーブル端に片付けた男性が、自身のジャケットからスマホを取り出す。 「……ねぇ、見て」 手帳型ケースのそれを開き、ポケットから何やら小さな紙切れを取り出す。 「君のお父さんの、若い頃」 それは、八分割サイズのプリクラ。 古いせいか画質は荒く、印刷が全体的に薄い。 父だと思われる学生服姿の男性。その隣には、綺麗に微笑む目の前の男性。 「これは、就活用の証明写真。 達哉はね、高校を卒業して直ぐ働いていたの。……随分と若いでしょ」 唇をきゅっと引き結び、至極真面目な表情。 ──今のアゲハに、良く似ている。

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