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第9話

「……」 話には聞いていた。 けど、ここまで似ていたなんて……  母がアゲハを溺愛する理由を見せつけられたようで、胸がざらつく。 「達哉が生きていた頃の話、お母さんから聞いた事ある?」 僕の反応が、思っていたのと違っていたんだろう。テーブルに並べたプリクラと証明写真を拾いながら、男がさらりと聞いてくる。 「………いえ。母は僕を、嫌っていますから」 喉を詰まらせながらそう答えれば、男の手が止まる。 「どうして?」 眉尻を下げ、憂いを帯びる瞳。それを隠すように、口角を少しだけ持ち上げた微笑は、酷く寂しそうで。直視できず、左右に視線を揺らしながら瞳を伏せる。 「僕が産まれた時……交通事故に遭って、亡くなったから。 僕を見ると、その事を思い出してしまうみたいで……」 「……なにそれ」 クスクスッ。 突然、男が吹き出したように笑う。 「志津子さんって、前からオカシイ人だと思ってたけど。……そう」 「……」 それに驚いて視線を上げれば、口元に笑みを浮かべながら、集めた写真を元の場所に仕舞っていた。 「それじゃあ……今までずっと、可愛がって貰えてなかったんだね」 「……」 「もっと早く、さくらを引き取れば良かった……」 伏せられていた視線が持ち上がり、戸惑う僕を射抜く。 「……!」 その瞬間──幼い頃の出来事が、走馬灯の如く脳裏を駆け抜ける。 存在自体を否定され。全てを拒絶され。蔑んだ目で見られ。理不尽な理由で折檻部屋に閉じ込められ。その上、僕が大事にしていたものを容赦なく壊された。 それでも。母の気を引こうと、何度も話し掛けたり、明るく振る舞ったりした事もあったけど…… 『お前なんか、産まなきゃよかった──!』 母との溝が埋まる事は、なかった。 「まだ言ってなかったよね。 僕は、達哉の弟。──君の『叔父』にあたるのかな」 「……」 「名前は、工藤若葉」 そう言った男性──若葉が身を乗り出して片手を伸ばし、僕の片頬をそっと包む。 「僕はね、……さくらが平穏な人生を送っていれば、それで良いと思ってた」 「……」 「だけど。そうじゃないのだとしたら……」 細くて綺麗な指。 いつの間にか濡らした涙の縦筋を、その親指がそっと拭う。 「僕と一緒に、暮らさない?」

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