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第11話

はぁ…… 湯船に浸かり、溜め息をつく。 「……」 今日だけで、色々な事が起きた。 『樫井秀孝の共演者』という情報から割り出したんだろうけど。学校に、マスコミ関係者が押し寄せて。強制退去の通告も受け。被害者リストを見たらしい男が、僕を── 「……」 ぶるっと震える身体。 突然蘇る、恐怖と嫌悪感。 水面から肩を突き出したまま背中を丸め、膝を抱えて交差させた腕をぎゅっと掴む。 ……怖かった。 もし、若葉に見つけて貰えなかったらと思うと、怖くて堪らない。 感触が強く残る耳朶や首筋を、もぎ取るように手の甲で強く拭う。 『もっと早く、さくらを引き取れば良かった』──身内に僕を良く思う人なんて、いなかったから。そう言われるなんて、思わなくて。 僕がこの世に存在してもいいと、許されたようで……受け入れられた事が、何よりも嬉しい。 借りた部屋着に袖を通す。 小柄で細身だとはいえ、僕よりも背の高い若葉の私服は、少しだぼっとしていて。何故だろう。香水や柔軟剤とは違う甘い匂いが鼻腔を擽り、僕の胸の奥を柔らかく締め付ける。 「……お風呂、ありがとうございました」 脱衣所を出て居間に戻れば、ラフな格好で読書をしながら紅茶を嗜んでいた若葉が振り向く。 「そういう気遣い、これからはナシね」 「……」 「明日、学校でしょ? 布団引いてあるから、先に休んで」 「……ぇ、でも……」 「僕はここで、充分だから」 そう言って、毛足の長いラグマットをポンポンとする。 「……」 見返りのない、無条件の優しさ──何故か、そんな感じがして。心が震え、熱いものが込み上げる。産毛をなぞり上げられるような感覚に襲われた後、次々と零れ落ちていく大粒の涙。 「………今まで、辛い目に遭ってきたんだね」 ふわっ…… ティーカップをテーブルに置き、静かに立ち上がった若葉が、そっと僕を抱き締める。 「大丈夫。これからは、僕が守ってあげるから」 「……」 「さくらは何も、心配しないで……」 僕の背中や後頭部に触れる、優しい手。 不思議。若葉は男性なのに──我が子を守る母親のよう。 「……」 陽だまりのように、温かくて。 優しさに包まれるような、安心感。 此処が、本来在るべき僕の居場所……なのかもしれない。

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