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第14話

悪いのは、卑劣なやり方で未成年者に手を出した、樫井秀孝の方なのに。 どうして僕のプライバシーまで、侵害されなくちゃならないんだろう。 ……僕が、アゲハの弟だから? 今まで、色んな人に踏み台にされてきた。僕がどんな気持ちでいようが、傷付こうが関係なくて。アゲハに近付く為なら、僕の心をも利用する汚い奴等ばかりだった。 その呪縛から、やっと解放されたと思っていたのに。また── ──ドンドンドンッ! 突然、ドアを激しく叩かれる。 その刹那、酷く飛び上がる心臓。 「工藤さくらくーん!」 「中にいるんでしょー?」 カタンッ、 ドアポストの口が開き、放たれる声。 散った筈のジャーナリスト達が、戻ってきたのだろうか。それとも、また別の── 「……っ、」 悪い事をした訳じゃ、ないのに。 カーテンを閉めきったまま、部屋の片隅で膝を抱え、耳を塞ぐ。 ──『では、次のコーナーに参ります。本日は、○○の美味しい店を紹介します。リポーターの……』 付けっぱなしのテレビから漏れる、朝の爽やかな音楽。女子アナが柔和な表情で、中継先のリポーターに呼びかけていた。 その作ったような笑顔が、気持ち悪い。僕を踏み台にする女達と、重なって見えて…… ──ドンドンドンッ! 「ちょっとだけでも、話聞かせてよ!」 「ねぇ、工藤さくらくん!」 ……なん、で…… 執拗に責め立てる声。 踵をお尻の方へと近付け、身体を小さく丸める。 母に怒鳴られた時のような恐怖が襲い、俯きながら瞼を強く閉じる。 小刻みに震える身体。指先。 まるで、折檻部屋に閉じ込められた時のようで……怖い。 『大丈夫』 耳奥で響く、若葉の声。 『これからは、僕が守ってあげるから』 優しく僕を包む温もり。 ふわりと香る、若葉の甘い匂い。 「……」 ただ……それだけで。 守られてるような気がして。 胸の奥が切なく震えてしまう。 ──ドンドンドンッ それでも。暴力的なノック音が、僕を冷たい現実に引き戻す。 袖口をギュッと強く握り締め、この恐怖の嵐が過ぎ去っていくのを、ただ堪えるしかなかった。

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