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第18話

「それで。樫井秀孝のスクープ報道が過熱する裏で、凌さんの事件を一面に出した週刊誌が、翌週、顧客リストが偽物だったと謝罪文を出したんス」 「……」 「それから、これはどうやら本当らしいんスが。一連の犯人である凌さんとシンさんが、自殺したと書かれているんッス」 「……ぇ……」 ──凌が、自殺……? 一瞬で、頭の中が真っ白になる。 俄に信じられなくて、事態を上手く飲み込めない。 学校の行き帰り、マンションを見掛けていたあの時には、もう── 「『追い詰められた末の、あっけない幕引き』って。文末にそう書かれて、……この件は、終わりっす」 「……」 シャワールームを出た時に見た、凌の手の甲や床に飛び散った(おびただ)しい量の血──あれは、顔の形が変わる程の制裁があったんだろうと、容易に想像できた。 ……だけど…… それだけで、自殺なんて…… ザザ、ザザザ…… ふと脳裏を過ったのは、去年の晩夏。 ハイジが一方的に殴り倒した男の顔は、原形を留めてなくて。……目を背けたくなる程の、酷い有様だった。 ……まさか…… ドクンッ、 突然、不安を掻き立てる強い鼓動。 深い闇が直ぐそこに迫り、片足を掴まれたような冷ややかな恐怖が襲う。 ……もし、そうだとしたら…… 嫌な単語が浮かび、まだ冷静さを取り戻せていない脳内を、グルグルと忙しく回る。 『……戻れよ、あの家に』『お前が思ってる以上に、……もうこっちは、ヤベぇんだ』──耳奥から響く、ハイジの声。 あの日──屋台のラーメン屋で言われた本当の意味が、今になって解ったような気がする。 ハイジは、この恐ろしい闇の世界(アンダーグラウンド)から、僕を遠ざけようとしていた。 僕を、守る為に…… 「……」 ……どうしよう…… 胸の奥が、ツキンと痛む。 身体が震え、指先が冷たくなり、脳がジリジリと痺れていく。その度に狭まっていく、視界── 「……」 笑顔を向け、僕に近付いてくるモルが、何やら違う話題を振っているように感じるけれど。肝心のその内容は、全然僕の中に入ってこない。 「……」 目の前に立ち、スッと差し出される何か。無意識に手を伸ばせば……その指先の爪は、随分と濃い青紫をしていて。 ……あれ、こんな色……してたっけ…… 「姫……?」 揺れる視界。 何だか、息が苦しい…… 「姫っ!!」 遠くで、モルの叫ぶ声が聞こえる。 ……だけど、もう…… 意識が遠退き、ふわっと身体が軽くなって……それに答える事ができなかった。

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