19 / 71
第19話 似たもの同士
×××
別に、どうだっていい。
凌が生きていようが死んでいようが、僕には関係ない。
だけど……死んで欲しいと願う程、恨んでなんかいなかったのに。
凌はただ、僕の甘さにつけ込んだだけ。きっと、今までそうやって生きてきたんだろう。
情けを掛けた赤の他人を、便利な道具か何かのように思っていたんだから、恨んでいる人なんか沢山いる筈。……まぁ、中には感謝してる人達も、いるんだろうけど。
そういう意味では、消されても仕方のない人間だった。
でも──
「……」
ぱちん、と瞼が大きく持ち上がる。
それまで感じていた、水面に浮かんでゆらゆらと揺れるような感覚が消え、仄暗い、見知った天井が映る。
……あれ……
ゆっくりと瞬きをし、視線だけを動かして辺りを見回す。
間違いない。若葉のアパートだ。
でも、どうして……確か僕は、向こうのアパートに一人残って、掃除をしていた筈。
──カタン、
突然、引き戸が開く。
驚いて見れば、肩より長い髪をさらりと揺らした若葉が顔を覗かせた。
「ごめん。起こしちゃった?」
「……」
「入るね」
まだぼんやりした眼 で若葉を見つめていれば、口角を緩く持ち上げた若葉が静かに入室する。
「具合は、どう?」
「……」
「突然倒れたって聞いたから、驚いちゃった」
「……ぇ……」
倒れた?
……僕が?
驚きを隠せないまま若葉をじっと見つめていれば、布団で横になっている僕の傍らに両膝を付いて腰を下ろす。
「あの部屋にいた子……赤い髪を後ろに束ねた、背の低い男の子。さくらの、お友達?」
「……」
赤い髪──ああ、モルの事か。
若葉と岩瀬が出ていった後、アパートを訪ねて来たモルの姿を思い出し、こくんと小さく頷く。
「……そう」
それまで優しげな光を宿していた若葉の瞳が陰り、物憂げな表情へと変わる。
「やっぱり、さくらも一緒に連れて行けば良かった」
「……」
……え……
それは、どういう意味……
不意に伸ばされる手。
細くて綺麗な指先が僕の前髪を優しく掻き上げ、おでこにそっと手のひらを当てる。
柔らかくて、温かくて。
さらりと肩から流れ落ちる綺麗な髪。首元から微かに香る、甘い匂い。
心が擽られ、とろりと柔らかく溶かされていく。
ともだちにシェアしよう!